週明けの夕方。
 仕事を終え、エントランスに向かう途中で颯真に呼び止められた。

「片山、ちょっといい?」
「……どうしたの?」

 その表情はいつもの軽さとは違い、どこか切実な色を帯びていた。
 連れられて外に出ると、夕闇の風が頬を撫でた。
 オフィスビルの脇、街灯に照らされた場所で彼は立ち止まり、まっすぐこちらを見つめる。

「俺……ずっと言えなかったんだけど」
「……」

 胸がざわめく。
 颯真の声は震えていた。

「片山のことが好きだ。初めて会ったときから、ずっと」

 息が詰まる。
 思いもしなかった言葉が、夜の空気に響いた。

「拓也じゃなくて、俺を見てほしい。俺なら、お前を絶対に泣かせない」

 その真剣な瞳に、心が大きく揺れる。
 どう返せばいいのか分からず、唇が震えた。

「颯真、私は……」

 その瞬間。

「……何をしている」

 低い声が闇を裂いた。
 振り向くと、拓也が立っていた。
 鋭い黒曜石の瞳が、炎のように燃えている。

「西園寺さん……」
 颯真が眉をひそめる。

「片山に告白するつもりか」
「悪いか? 俺は本気だ」

 二人の視線がぶつかる。
 その緊張感に、胸が押し潰されそうになる。

「……片山は、俺が守る」
「それを決めるのは彼女だ」

 颯真の言葉に、拓也の拳がわずかに震えた。
 私は慌てて間に入り、二人を見上げる。

「やめて……お願い」

 声が震え、涙が滲む。
 どうして、こんなことになってしまったのだろう。
 誰も傷つけたくないのに――私のせいで、二人の瞳が火花を散らしている。