（母子共に健康であればいいが……）

子どもが生まれることは嬉しいことだ。しかし、最悪なことを頭の片隅では考えてしまう。その不安はルカだけでなく、ビオラも感じているのだろう。ビオラも泣き出してしまいそうな顔をしている。その顔を見て、ルカはハッとした。

（父親である僕がこんな顔をしていてはダメだな。ビオラに不安が移ってしまっている）

ルカは笑みを浮かべ、「ビオラ」と名前を呼ぶ。ビオラと目が合った。ルカはビオラの頭を撫でながら言う。

「お母さんは今頑張っている。お父さんたちにできることは応援することだけだ。でも、その応援がお母さんの力になるんだよ」

「応援……。じゃあ僕、お母さんのところへ行って応援する！」

ビオラは両手を握り締めて言う。ルカは笑い声を上げた。先ほどまで胸の片隅に合った不安はもうない。

「お母さんは今大変だから、応援するならここでしよう」

ルカがそう言った時である。屋敷中に大きな泣き声が響いた。雨の音も、風の音も、全ての音をかき消す大きな声である。