刑事さんも、家族たちも、「無事でよかった」なんて言うけれど。
無事って、なに……?
未遂だったから無事なの?
あんなにも浴衣をビリビリにされて、心に深い傷を負って、忘れられないショックを植えつけられて。
それでいて「無事」って、なんだろう。
「…お母さん?」
その日の夕方。
コンコンと、静かなノック音。
「夕飯…?今日は早いんだね」
「…………」
「…涼さん…?」
あの事件があってからこの部屋に今のところ足を踏み入れているのは、お母さんか涼さんだけ。
お父さんの顔も見ていないし、忙しく動き回っているお兄ちゃんは声だけを聞いた程度。
しばらくは。
もう少し落ち着くまでは。
「開けていいよ…?」
そこまで言って、ゆっくり開いたドア。
───の、先に居たのは。
「っ…!」
すぐに布団をすっぽりと被る。
いちばん見られたくない人だ。
北斗くんと同じくらい、顔を合わせたくなかった人。
けれどたった今の一瞬で見た情景が、ふと私に身体を起こさせた。



