夜風の吹く屋上で、彼女は涙を流しながら言った。

 「私は……藤堂部長、あなたが好きです」

 その瞬間、俺の胸の奥で何かが静かに崩れ落ちた。
 ――やっぱり、そうか。
 薄々わかっていた。彼女の瞳に映るのは、いつだって藤堂部長だけだった。



 「……そうか」
 言葉にしたとき、自分でも驚くほど穏やかだった。
 本当は叫びたかった。
 「俺を選んでほしい」と。
 「今そばにいるのは俺だ」と。

 けれど、それは彼女を困らせるだけだ。
 だから、笑うしかなかった。



 「やっぱり、そうだと思ってたよ」
 そう言った俺の声は、思ったよりも優しく響いていた。

 彼女は涙に濡れた顔で「ごめんなさい」と呟いた。
 俺は首を振り、そっと頭を撫でた。
 ――謝らなくていい。
 好きになったのは、俺だから。



 数日後、二人が並んで歩く姿を見かけた。
 彼女の笑顔は、以前よりもずっと穏やかで、迷いがなかった。
 その横顔を見て、胸の奥がまた痛んだ。

 けれど同時に、安堵もしていた。
 ――ああ、ようやく彼女は幸せになれたんだな、と。



 夜、一人でバーに立ち寄った。
 琥珀色のグラスを揺らしながら、ふと呟く。

 「俺も、いつか……誰かに本気で愛される日が来るかな」

 苦笑しながらグラスを口に運ぶ。
 けれど、不思議と心は軽かった。



 彼女が選んだのは俺じゃなかった。
 でも、俺が彼女を本気で愛したことは、消えない真実だ。

 ――もし彼女がまた泣く日が来たら、そのときは。
 俺はきっと、迷わず駆けつける。

 そう胸の奥で誓いながら、夜空に輝く星を見上げた。