「……私は、私の気持ちを、ちゃんと選びます」
 震える声でそう告げた瞬間、二人の視線が一斉に私に注がれた。

 佐伯の瞳は、揺るぎない優しさと誠実さで満ちていた。
 蓮の瞳は、罪と後悔と、それでも消せない愛で滲んでいた。

 どちらの想いも、私を包み込んでいた。



 会議室を出たあと、私は屋上へ駆け上がった。
 夜風が頬を打ち、涙を散らす。

 十年前からずっと胸に残り続けた人。
 そして、今そばで支えてくれる人。

 「どうして……どうして二人とも、こんなに優しいの」
 嗚咽混じりの声が夜空に溶けた。



 足音が響く。
 振り向くと、蓮と佐伯、二人が並んで立っていた。

 「紗良」
 蓮の声は切なく震えている。
 「十年前、俺はお前を守れなかった。それでも、もう一度やり直したい」

 「西園寺さん」
 佐伯の声は温かい。
 「俺は、十年前のあなたを知らない。でも、今のあなたを支えたい。未来を一緒に作りたい」



 二人の声が胸を激しく揺さぶる。
 溢れる涙を拭うことさえできなかった。

 「……私……」
 喉が詰まり、言葉が出ない。

 けれど、逃げ続けることはもうできない。
 十年前の痛みも、今の迷いも、すべて抱えた上で――私は、選ばなければならない。



 「私が選ぶのは……」
 声が震え、涙が頬を伝う。

 その言葉に、二人の瞳がまっすぐ私を見つめた。
 未来を変える一言が、唇に乗ろうとしていた。



 ――涙の選択。
 その瞬間、私の心はようやく決断へと動きはじめていた。