十年前の真実。
 蓮が「守るために突き放した」と語った言葉が、頭から離れなかった。

 ――好きだからこそ離れた。
 その想いを信じたいのに、心は簡単に答えを出せなかった。



 夜、自室で一人、カーテンの隙間から街灯を見つめる。
 涙で濡れた瞳に映る光が揺れ、胸の奥の迷いも揺れていた。

 「私は……どうしたらいいの」
 声に出しても答えはなく、ただ胸が締めつけられるばかり。



 翌日。
 オフィスで資料をまとめていると、佐伯が静かに声をかけてきた。
 「顔色がよくない。昨日、何かあったんだろう?」

 彼の優しい瞳に、胸が痛む。
 「……私、何も返せないのに」
 呟くと、佐伯は首を振った。

 「返さなくていい。俺はただ、君のそばにいたいだけだから」

 その言葉に涙が滲む。



 蓮と佐伯。
 十年前の想いと、今そばにある優しさ。
 どちらも本物で、どちらも私を苦しめる。

 心は蓮を求めているのに、佐伯の温もりにすがりたくなる。
 矛盾する感情に引き裂かれそうだった。



 「……決めなくちゃ」
 小さく呟いた。
 けれど、その決意はまだ揺れている。

 ――愛する人にすがるのか。
 ――優しい人に身を委ねるのか。

 答えのない問いが、胸の奥で繰り返し響いた。



 揺れる決意。
 その先に待つのは、希望か、絶望か――。