佐伯の告白が、胸の奥で響き続けていた。
 「俺は本気で君を愛してる」
 優しい声と熱い眼差し。
 忘れられるはずがなかった。

 けれど、私が求めるのは――やっぱり蓮だった。



 翌日のオフィス。
 資料を抱えて廊下を歩いていると、蓮と鉢合わせした。
 「……おはようございます」
 勇気を出して声をかける。

 しかし彼は、一瞥しただけで答えず、通り過ぎようとした。
 「部長……!」
 思わず呼び止めると、彼はゆっくりと振り返る。

 「……佐伯と親しいようだな」



 心臓が跳ねた。
 「それは……」
 言葉を探す私を、彼の冷たい視線が射抜く。

 「俺の部下としての立場を忘れるな。
 噂一つで部署の信頼は揺らぐんだ。……君にはその自覚があるのか?」

 突き放すような言葉。
 けれどその声は、かすかに揺れていた。



 「私は……部長に誤解されたくないんです」
 必死に言葉を重ねる。
 「佐伯さんは優しいだけで、私を――」

 「言い訳はいらない」
 蓮は短く遮った。
 「俺は君の私生活に興味はない」

 冷たく言い放つ表情に、痛みが走った。
 ――本当に、そうなの?



 「興味がないなら、どうして……」
 思わず声が震える。
 「どうして、そんなに突き放すんですか」

 蓮の瞳がわずかに揺れた。
 だが次の瞬間、彼は背を向けた。

 「……俺には、君をどうこうする資格がない」

 その言葉だけを残し、足早に去っていく。



 冷たい拒絶。
 それは、心を守るための壁なのだとわかっていても――やはり胸は張り裂けそうだった。

 「どうして……」
 呟いた声は、虚しく廊下に消えていった。