「……愛していた」
彼の掠れた声が、何度も胸の奥で反響していた。
十年前、聞くことのできなかった言葉。
その真実を知れたのに、涙は止まらなかった。
――なら、どうして。
どうしてあの時、私を抱きしめてくれなかったの。
会議室を出たあとも、心はざわめき続けていた。
夜のオフィス街。
雨上がりのアスファルトに灯りが揺れ、私の影を細長く伸ばしていた。
けれど、その影は一つではなかった。
もう一つ、背後から迫る影があることに気づいたのは、そのときだった。
「……久しぶりね」
耳に届いた女の声。
振り返ると、そこに立っていたのは――藤堂部長の“元婚約者”だと噂されていた女性だった。
「あなたが、まだ彼のそばにいるなんて驚いたわ」
冷たい微笑みが、背筋を凍らせる。
「彼に相応しいのは、私だけ。……十年前と同じように」
その言葉に、胸が締めつけられた。
「違います……私は――」
反論しかけた声を、彼女は嘲笑で遮った。
「じゃあ、なぜあなたはいつも孤立するの?
噂に振り回されて、彼に守られてばかり。
本当に愛されているなら、もっと自信を持てるはずでしょう?」
言葉を失った。
図星だった。
私自身、まだ彼を信じきれていない。
その夜、自室の窓辺で膝を抱えた。
「……私は弱い」
呟いた声は震えていた。
十年前の影。
そして今もなお残る元婚約者の影。
それらが心を揺さぶり、彼との距離をまた遠ざけていく。
翌日。
出社すると、同僚たちの視線が再び冷たく突き刺さった。
「ねえ、聞いた? また“彼女”が現れたらしいよ」
「やっぱり西園寺さんじゃ無理なんだ」
囁かれる声。
――影は、確かに動き始めていた。
そのとき、佐伯がそっと隣に立った。
「大丈夫。俺がいるから」
温かい笑顔と、差し出されたコーヒーのカップ。
その優しさが、心を救うようで、同時に苦しかった。
「ありがとう……」
小さな声で答えるしかなかった。
――心を揺さぶる影。
過去の影も、噂の影も、そして彼女の影も。
私たちの未来を容赦なく曇らせていく。
けれど、その闇を越えなければ、もう一度「愛している」と信じる日は来ないのかもしれない。
彼の掠れた声が、何度も胸の奥で反響していた。
十年前、聞くことのできなかった言葉。
その真実を知れたのに、涙は止まらなかった。
――なら、どうして。
どうしてあの時、私を抱きしめてくれなかったの。
会議室を出たあとも、心はざわめき続けていた。
夜のオフィス街。
雨上がりのアスファルトに灯りが揺れ、私の影を細長く伸ばしていた。
けれど、その影は一つではなかった。
もう一つ、背後から迫る影があることに気づいたのは、そのときだった。
「……久しぶりね」
耳に届いた女の声。
振り返ると、そこに立っていたのは――藤堂部長の“元婚約者”だと噂されていた女性だった。
「あなたが、まだ彼のそばにいるなんて驚いたわ」
冷たい微笑みが、背筋を凍らせる。
「彼に相応しいのは、私だけ。……十年前と同じように」
その言葉に、胸が締めつけられた。
「違います……私は――」
反論しかけた声を、彼女は嘲笑で遮った。
「じゃあ、なぜあなたはいつも孤立するの?
噂に振り回されて、彼に守られてばかり。
本当に愛されているなら、もっと自信を持てるはずでしょう?」
言葉を失った。
図星だった。
私自身、まだ彼を信じきれていない。
その夜、自室の窓辺で膝を抱えた。
「……私は弱い」
呟いた声は震えていた。
十年前の影。
そして今もなお残る元婚約者の影。
それらが心を揺さぶり、彼との距離をまた遠ざけていく。
翌日。
出社すると、同僚たちの視線が再び冷たく突き刺さった。
「ねえ、聞いた? また“彼女”が現れたらしいよ」
「やっぱり西園寺さんじゃ無理なんだ」
囁かれる声。
――影は、確かに動き始めていた。
そのとき、佐伯がそっと隣に立った。
「大丈夫。俺がいるから」
温かい笑顔と、差し出されたコーヒーのカップ。
その優しさが、心を救うようで、同時に苦しかった。
「ありがとう……」
小さな声で答えるしかなかった。
――心を揺さぶる影。
過去の影も、噂の影も、そして彼女の影も。
私たちの未来を容赦なく曇らせていく。
けれど、その闇を越えなければ、もう一度「愛している」と信じる日は来ないのかもしれない。

