「……これ以上、近づいちゃいけない」
そう心に決めてから、一週間。
私はできる限り藤堂部長との接触を避けてきた。
報告も最低限。視線も合わせない。
そのたびに、胸の奥が軋んだけれど、それしか方法がなかった。
しかし――仕事は容赦なく、彼と私を同じ場所に立たせる。
大口取引先とのプレゼンの日。
会議室で隣に並んだ瞬間、緊張で手が震えた。
彼は横顔ひとつ動かさず、冷静に資料をめくる。
「西園寺、説明を」
短く告げられ、立ち上がった。
何度も練習した言葉なのに、喉がからからに乾いて、思うように声が出ない。
そのとき、不意に彼の手が伸び、資料をそっと押さえてくれた。
「落ち着け」
小さな声で囁かれる。
聞こえたのは私だけ。
心臓が大きく跳ねる。
――近づかないって決めたのに。
どうして、こんなときに支えてくれるの。
プレゼンは何とか終わり、拍手に包まれた。
ホッとしたのも束の間、背後から聞こえた同僚たちの声が耳に刺さる。
「やっぱり部長と特別なんじゃない?」
「西園寺さん、あんなふうにフォローしてもらえるなんて」
心が痛む。
私は彼を避けているだけなのに、また噂になってしまう。
帰り際、エレベーターで二人きりになった。
沈黙が重くのしかかる。
「……部長」
思わず声を出したが、続く言葉が見つからない。
彼はしばらく黙っていた。
やがて、小さく吐き捨てるように言った。
「……そんなに俺を避けたいか」
「っ……」
胸が締めつけられる。
「違います……避けたいわけじゃ……」
必死に言葉を探すが、声は震えていた。
彼は眉をひそめ、苦しげに視線を逸らした。
「なら、どうしてそんな顔をする」
答えられない。
答えれば、心が壊れてしまいそうで。
エレベーターの扉が開く音が、重苦しい空気を断ち切った。
私は逃げるように飛び出した。
背後から、彼の低い声が追いかけてくる。
「西園寺……!」
振り返る勇気はなかった。
ただ胸の奥で、何度も彼の名を叫んでいた。
――すれ違う想い。
互いに求めているのに、どうして言葉が届かないのだろう。
そう心に決めてから、一週間。
私はできる限り藤堂部長との接触を避けてきた。
報告も最低限。視線も合わせない。
そのたびに、胸の奥が軋んだけれど、それしか方法がなかった。
しかし――仕事は容赦なく、彼と私を同じ場所に立たせる。
大口取引先とのプレゼンの日。
会議室で隣に並んだ瞬間、緊張で手が震えた。
彼は横顔ひとつ動かさず、冷静に資料をめくる。
「西園寺、説明を」
短く告げられ、立ち上がった。
何度も練習した言葉なのに、喉がからからに乾いて、思うように声が出ない。
そのとき、不意に彼の手が伸び、資料をそっと押さえてくれた。
「落ち着け」
小さな声で囁かれる。
聞こえたのは私だけ。
心臓が大きく跳ねる。
――近づかないって決めたのに。
どうして、こんなときに支えてくれるの。
プレゼンは何とか終わり、拍手に包まれた。
ホッとしたのも束の間、背後から聞こえた同僚たちの声が耳に刺さる。
「やっぱり部長と特別なんじゃない?」
「西園寺さん、あんなふうにフォローしてもらえるなんて」
心が痛む。
私は彼を避けているだけなのに、また噂になってしまう。
帰り際、エレベーターで二人きりになった。
沈黙が重くのしかかる。
「……部長」
思わず声を出したが、続く言葉が見つからない。
彼はしばらく黙っていた。
やがて、小さく吐き捨てるように言った。
「……そんなに俺を避けたいか」
「っ……」
胸が締めつけられる。
「違います……避けたいわけじゃ……」
必死に言葉を探すが、声は震えていた。
彼は眉をひそめ、苦しげに視線を逸らした。
「なら、どうしてそんな顔をする」
答えられない。
答えれば、心が壊れてしまいそうで。
エレベーターの扉が開く音が、重苦しい空気を断ち切った。
私は逃げるように飛び出した。
背後から、彼の低い声が追いかけてくる。
「西園寺……!」
振り返る勇気はなかった。
ただ胸の奥で、何度も彼の名を叫んでいた。
――すれ違う想い。
互いに求めているのに、どうして言葉が届かないのだろう。

