「……忘れろ」
その言葉を残して、彼は背を向けた。
会議室の扉が閉まる音が、胸の奥に突き刺さる。
十年前、突然別れを告げられた日の記憶がよみがえる。
――まただ。
私はまた、同じ場所に立たされている。
次の日から、私は彼を避けるようになった。
会議で目が合いそうになると視線を逸らし、最低限の報告だけを口にする。
廊下ですれ違っても、気づかないふりをした。
「西園寺さん、最近元気ないね」
佐伯の穏やかな声が、心に染みる。
笑顔で応えようとするが、作り笑いはすぐに崩れた。
「……大丈夫です」
それしか言えなかった。
夜。
デスクに一人残って資料を整理していると、誰かの気配を感じた。
顔を上げると、ドアの向こうに彼が立っていた。
「まだ残っていたのか」
低い声。
以前なら心臓が跳ねていただろう。
けれど今は、ただ胸が痛むだけだった。
「……すぐ帰ります」
視線を合わせないまま、鞄を持ち上げる。
「西園寺」
呼び止められても、振り返らなかった。
それが唯一の抵抗だった。
背中に感じる視線が、どこか切なげに揺れているのはわかった。
けれど、踏み込む勇気はもうなかった。
――彼の言えない理由。
――私の知らない十年前の真実。
そのすべてが、二人の間に大きな壁を作っている。
帰り道の夜風は冷たく、頬を突き刺した。
街灯の下で、自分の影を見つめる。
「もう……近づいちゃいけない」
小さく呟いた声が震える。
どんなに想っても、彼は「忘れろ」と言った。
それなら、私は彼の望むようにするしかない。
――再び距離を置く心。
そう決意したはずなのに、胸の奥は苦しくてたまらなかった。
その夜、ベッドに横たわっても眠れなかった。
瞼を閉じれば、彼の横顔ばかりが浮かぶ。
冷たい拒絶と、不意の優しさ。
どちらも忘れられない。
「蓮……」
名前を呼んだ瞬間、また涙が零れ落ちた。
その言葉を残して、彼は背を向けた。
会議室の扉が閉まる音が、胸の奥に突き刺さる。
十年前、突然別れを告げられた日の記憶がよみがえる。
――まただ。
私はまた、同じ場所に立たされている。
次の日から、私は彼を避けるようになった。
会議で目が合いそうになると視線を逸らし、最低限の報告だけを口にする。
廊下ですれ違っても、気づかないふりをした。
「西園寺さん、最近元気ないね」
佐伯の穏やかな声が、心に染みる。
笑顔で応えようとするが、作り笑いはすぐに崩れた。
「……大丈夫です」
それしか言えなかった。
夜。
デスクに一人残って資料を整理していると、誰かの気配を感じた。
顔を上げると、ドアの向こうに彼が立っていた。
「まだ残っていたのか」
低い声。
以前なら心臓が跳ねていただろう。
けれど今は、ただ胸が痛むだけだった。
「……すぐ帰ります」
視線を合わせないまま、鞄を持ち上げる。
「西園寺」
呼び止められても、振り返らなかった。
それが唯一の抵抗だった。
背中に感じる視線が、どこか切なげに揺れているのはわかった。
けれど、踏み込む勇気はもうなかった。
――彼の言えない理由。
――私の知らない十年前の真実。
そのすべてが、二人の間に大きな壁を作っている。
帰り道の夜風は冷たく、頬を突き刺した。
街灯の下で、自分の影を見つめる。
「もう……近づいちゃいけない」
小さく呟いた声が震える。
どんなに想っても、彼は「忘れろ」と言った。
それなら、私は彼の望むようにするしかない。
――再び距離を置く心。
そう決意したはずなのに、胸の奥は苦しくてたまらなかった。
その夜、ベッドに横たわっても眠れなかった。
瞼を閉じれば、彼の横顔ばかりが浮かぶ。
冷たい拒絶と、不意の優しさ。
どちらも忘れられない。
「蓮……」
名前を呼んだ瞬間、また涙が零れ落ちた。

