不幸を呼ぶ男 Case.3


【民政党本部・記者会見場】

会場は
異様な熱気に、包まれていた
全てのテレビカメラ
全ての記者の目が
ステージの上の、一点に集中している
そこには
腕を吊り
顔のあちこちに、痛々しい傷や痣がある
満身創痍の、黒川皐月が立っていた
だが
彼女の姿は
昨日よりも、遥かに、大きく見えた
彼女は
一度、会場を、静かに見渡すと
マイクの前に立ち
話し始めた
黒川:「まず、第一に、防衛力の抜本的な強化」
黒川:「自衛隊の予算を倍増させ、サイバー防衛、宇宙領域での防衛能力を、世界最高レベルにまで引き上げます」
黒川:「『強い日本』なくして、国民の平和な暮らしは、ありえません」
黒川:「第二に、経済安全保障」
黒川:「重要な技術や資源を、海外に依存する現状を、改めます」
黒川:「日本国内での、サプライチェーンを再構築し、何者にも脅かされることのない、真に自立した経済を、創り上げます」
黒川:「第三に、エネルギー政策」
黒川:「安全性が確認された、最新の原子力発電所を、再稼働させます」
黒川:「安定したエネルギー供給こそが、豊かな国民生活の、礎となるからです」
彼女が語るのは
これまで、彼女が一貫して主張してきた
強く、そして、豊かな日本を再建するための
具体的な、政策だった
そして
彼女は、最後に、こう付け加えた
その声は
これまでの、どの言葉よりも
静かで、しかし、力強かった
黒川:「……最後に、社会保障についてです」
黒川:「難病を患う子供たちの、高額な移植手術費用は」
黒川:「……今後、その全てを、政府が負担します」
会場が、どよめいた
彼女の、これまでの主張からは
全く、想像もできない、公約だったからだ
黒川:「……これが、私が掲げる、全ての公約です」

黒川が、公約の発表を終えた
その、瞬間
会場は、堰を切ったような、質問の嵐に包まれた
​記者A:「黒川先生!大野勇次郎議員が、総裁選を辞退した本当の理由は何なんですか!」
​記者B:「先生ご自身の、そのお怪我は、数日前に噂になった、襲撃事件によるものですか!」
​記者C:「難病患者への、突然の、手厚い社会保障!これは、同情を引くための、ただのパフォーマンスではないんですか!」
​黒川は
その、怒号の嵐を
まるで、心地よい風でも受けるかのように
静かに、受け止めていた
そして
一人の、記者を指名する
​黒川:「……まず、大野議員の件について」
黒川:「彼の、辞退の本当の理由を、私がここで憶測で語ることは、できません」
黒川:「ですが、一つだけ言えるのは」
黒川:「彼は、最後まで、この国の未来を案じていた、本物の政治家だった、ということです」
​彼女は
次に、別の記者を指名した
​黒川:「次に、私の、この怪我について」
黒川:「ええ。事実です。私は、何者かに、襲われました」
黒川:「『総裁選を辞退しろ』という、脅迫と共にね」
​会場が、大きく、どよめいた
​黒川:「ですが、私は、屈しない」
黒川:「このような、卑劣な暴力に、この国の民主主義が、負けることがあってはならない」
​そして
彼女は、最後に
先ほど、彼女を「パフォーマンスだ」と罵った記者を
鋭い目で、射抜いた
​黒川:「……最後に、社会保障の件について」
黒川:「パフォーマンス、ですって?」
黒川:「ええ、そうかもしれませんわね」
​彼女は、ふっと、自嘲するように笑った
​黒川:「私は、昨日まで、知らなかった」
黒川:「この国には、たった数千万円の金が払えないという、ただそれだけの理由で、失われていく、幼い命があることを」
黒川:「その、当たり前の事実に、気づけなかった」
黒川:「そんな、自分を、恥じています」
​黒川:「……だから、私は、決めたのです」
黒川:「この国の、全ての子供たちを、守ると」
黒川:「未来の総理大臣として、ではなく……」
黒川:「ただ、この国に生きる、一人の大人として」
​その、魂からの、言葉に
あれほど、騒がしかった会場が
完全に、静まり返っていた
もはや、彼女に、野次を飛ばす者は
一人も、いなかった
​彼女は
完全に
その場を、支配していた。

一人の、指導者として
堂々と、語り続けた。