② 第一部 ― 再びの調査
藤崎沙耶失踪のニュースは、小さな欄外記事として地方紙に載っただけだった。
しかし、その記事を目にした相沢亮介の胸には、重い鉛のような不安が沈んだ。
二十年前の神谷家失踪事件を追った彼の記事。
沙耶はその記事を読んだ直後に姿を消した。
偶然とは思えなかった。
相沢は大学を訪れ、沙耶の友人である篠田麻衣に話を聞いた。
麻衣は震える声でこう打ち明けた。
「……沙耶、言ってたんです。夜になると“声”が聞こえるって。
『ゆるして』『ごめんなさい』って……私も、ちょっとだけ聞こえた気がして……」
相沢の背筋を冷たいものが走った。
――囁きは、沙耶だけではなく、周囲にも及んでいる?
さらに調査を進めると、驚くべき証言が相次いだ。
記事を読んだ学生のひとりが、下宿の壁に赤黒い染みを見たという。
別の読者は、真夜中に耳元で「ほんとうのはんにんは」と囁かれたと語った。
それはもはや単なる幻聴ではなかった。
相沢の記事を媒介にして、血文字と囁きが伝染している。
その夜、相沢は自宅のデスクに座り、原稿の束を見つめていた。
ペン先からにじみ出したインクが、不自然に広がり始めた。
紙面に浮かんだのは、見覚えのある赤黒い文字。
「しってる」
心臓が喉までせり上がる。
頭を振っても、文字は消えない。
――これは本当に記事を読んだ者にだけ、現れるのか?
もしそうなら、自分自身こそが感染源ではないか。
相沢は思わず原稿を抱え込み、引き裂こうとした。
だが、その瞬間、耳元でふいに囁きがした。
「こわさないで」
血の気が引き、相沢は椅子に崩れ落ちた。
血文字は残響ではなかった。
今やそれは、読む者に取り憑き、囁きかける 生きた声 になっていた。
藤崎沙耶失踪のニュースは、小さな欄外記事として地方紙に載っただけだった。
しかし、その記事を目にした相沢亮介の胸には、重い鉛のような不安が沈んだ。
二十年前の神谷家失踪事件を追った彼の記事。
沙耶はその記事を読んだ直後に姿を消した。
偶然とは思えなかった。
相沢は大学を訪れ、沙耶の友人である篠田麻衣に話を聞いた。
麻衣は震える声でこう打ち明けた。
「……沙耶、言ってたんです。夜になると“声”が聞こえるって。
『ゆるして』『ごめんなさい』って……私も、ちょっとだけ聞こえた気がして……」
相沢の背筋を冷たいものが走った。
――囁きは、沙耶だけではなく、周囲にも及んでいる?
さらに調査を進めると、驚くべき証言が相次いだ。
記事を読んだ学生のひとりが、下宿の壁に赤黒い染みを見たという。
別の読者は、真夜中に耳元で「ほんとうのはんにんは」と囁かれたと語った。
それはもはや単なる幻聴ではなかった。
相沢の記事を媒介にして、血文字と囁きが伝染している。
その夜、相沢は自宅のデスクに座り、原稿の束を見つめていた。
ペン先からにじみ出したインクが、不自然に広がり始めた。
紙面に浮かんだのは、見覚えのある赤黒い文字。
「しってる」
心臓が喉までせり上がる。
頭を振っても、文字は消えない。
――これは本当に記事を読んだ者にだけ、現れるのか?
もしそうなら、自分自身こそが感染源ではないか。
相沢は思わず原稿を抱え込み、引き裂こうとした。
だが、その瞬間、耳元でふいに囁きがした。
「こわさないで」
血の気が引き、相沢は椅子に崩れ落ちた。
血文字は残響ではなかった。
今やそれは、読む者に取り憑き、囁きかける 生きた声 になっていた。

