⑤ 終幕 ― 囁きの意味
取材を重ねても、“第三の人物”の名は最後まで表に出てこなかった。
村の記録は改ざんされ、証言者は口を閉ざし、真相は闇に沈んだままだった。
だが確かに、囁きは続いている。
藤崎沙耶は戻らず、友人の麻衣は精神を病んだ。
修一もまた、夜ごと声に悩まされ、やつれていった。
――犠牲者が過去から訴えているのか。
――加害者の罪が今なお生者に刻まれているのか。
答えは、誰にも分からなかった。
ある夜、相沢は自宅で原稿を書いていた。
机の上に置いた原稿用紙の余白に、じわりと赤黒い染みが広がっていく。
「ゆるして」
紙面に浮かんだ文字を見た瞬間、耳の奥で囁きが重なった。
「しってる」
「ほんとうは」
「あなたでしょ」
息が詰まり、相沢は原稿を握りつぶした。
頭の中に渦巻く声は、犠牲者の叫びにも、加害者の告白にも聞こえた。
だがその中心にあるのは、紛れもなく“自分”を指し示す響きだった。
壁に、床に、窓ガラスに。
血文字が次々と浮かび、部屋中を覆い尽くしていく。
「ほんとうのはんにんは」
そこで文字は途切れた。
相沢は恐怖に凍りつきながらも、心のどこかで理解していた。
――残された続きを書くのは、自分自身なのだ。
指先が勝手にペンを握り、震える手で紙を汚していく。
文字が浮かび上がる。
「……わたし」
次の瞬間、部屋の中の囁きがぴたりと止んだ。
だが、静寂の中に残ったのは、赤黒く染まった紙片と、耳の奥に残る余韻だった。
「ありがとう」
その声が安堵のものか、嘲笑のものかは、相沢には分からなかった。
取材を重ねても、“第三の人物”の名は最後まで表に出てこなかった。
村の記録は改ざんされ、証言者は口を閉ざし、真相は闇に沈んだままだった。
だが確かに、囁きは続いている。
藤崎沙耶は戻らず、友人の麻衣は精神を病んだ。
修一もまた、夜ごと声に悩まされ、やつれていった。
――犠牲者が過去から訴えているのか。
――加害者の罪が今なお生者に刻まれているのか。
答えは、誰にも分からなかった。
ある夜、相沢は自宅で原稿を書いていた。
机の上に置いた原稿用紙の余白に、じわりと赤黒い染みが広がっていく。
「ゆるして」
紙面に浮かんだ文字を見た瞬間、耳の奥で囁きが重なった。
「しってる」
「ほんとうは」
「あなたでしょ」
息が詰まり、相沢は原稿を握りつぶした。
頭の中に渦巻く声は、犠牲者の叫びにも、加害者の告白にも聞こえた。
だがその中心にあるのは、紛れもなく“自分”を指し示す響きだった。
壁に、床に、窓ガラスに。
血文字が次々と浮かび、部屋中を覆い尽くしていく。
「ほんとうのはんにんは」
そこで文字は途切れた。
相沢は恐怖に凍りつきながらも、心のどこかで理解していた。
――残された続きを書くのは、自分自身なのだ。
指先が勝手にペンを握り、震える手で紙を汚していく。
文字が浮かび上がる。
「……わたし」
次の瞬間、部屋の中の囁きがぴたりと止んだ。
だが、静寂の中に残ったのは、赤黒く染まった紙片と、耳の奥に残る余韻だった。
「ありがとう」
その声が安堵のものか、嘲笑のものかは、相沢には分からなかった。

