望みゼロな憧れ騎士団長様に「今夜は帰りたくない」と、良くわからない流れで言ってしまった口下手令嬢に溺愛ブーストがかかってから

「ああ。知っての通り、俺は君のような令嬢とはあまり歩いたことがなくてな。悪かった。だが、気が急いてしまった」

 ……知っての通り……? 何が、どういうことなの??

 皆知っての通りハビエル様は、先の王弟クラレット公爵の三男。そんな彼は女性に大人気の騎士団長様で、私だって皆だって、それは知っている。

 けど……夜会に行けば貴族令嬢たちが、彼について語っていたのよ。

 王家からの信頼も厚いハビエル様はきっと、王家の姫か公爵令嬢を妻にするだろうから、私たちになんて望みなんて、何もないわよねって……そんな彼が、令嬢とあまり歩いたことがない……?

 これまでの私に対する態度を見れば、女嫌いという訳でもなさそうだ。私がおかしいことを言い出しただけで、彼は礼儀正しかったように思う。

 ハビエル様は呆然とした私に考える隙を与えずにさっと横抱きにして、スタスタと廊下の先へと進んだ。

 重さを感じさせない力強い腕に抱きかかえられ、私と手を繋いで歩いていた時より、彼の歩く速度は断然速くなった。