春の約束、夏の嘘

開演のアナウンスが流れると、ざわついていた館内がすっと静まり返った。

 ドーム型の天井に映し出されていた青空がゆっくりと暗転し、やがて漆黒の夜が広がっていく。

 瞬間、無数の星々がぱっと輝き、天井一面に散りばめられた。

「わあっ!」

「きれい!」

 子どもたちの歓声があちこちから上がる。

 遼は思わず息を呑んだ。

 本物の空を知る彼にとって、プラネタリウムの投影は作り物だとわかっている。だが、その「作り物」が観客を喜ばせる様子を目の当たりにすると、不思議な感動が胸に芽生えてくる。

 そのとき、マイクから透き通った声が響いた。

「みなさん、ようこそプラネタリウムへ。今夜は、夏の夜空の旅に出かけましょう」

 声の主は、美咲だった。

 スタッフ用の制服姿で、投影機の横に立ち、柔らかい笑みを浮かべている。

 遼はその姿に目を奪われた。

 研究室では無口な彼に比べ、美咲は観客に向かってはっきりと、わかりやすい言葉で語りかけていく。

 その口調には、自信と温かさがにじんでいた。

「夏の大三角って聞いたことがありますか?」

 美咲の問いかけに、子どもたちが一斉に手を挙げる。

「聞いたことある!」
「織姫さまだ!」

 彼女は嬉しそうに頷き、天井に三つの星を示す。

「こちらがこと座のベガ。七夕のお話でおなじみの織姫さまです。そして、こちらがわし座のアルタイル。彦星さまですね。最後に、はくちょう座のデネブを加えると……夏の夜空に大きな三角形が浮かび上がります」

 星々が線で結ばれると、観客から拍手がわき起こった。

 美咲はその反応に少し照れながらも、嬉しそうに微笑む。

 ――その姿を見つめるうち、遼の胸に奇妙な感覚が生まれた。

 自分が星を「研究する」ように、美咲は星を「伝えている」。

 目的は違うはずなのに、同じ空を見つめていることに気づき、言葉にならない熱が胸を満たしていった。