あの夜から二日が経った。
神谷からのメッセージには返事をせず、葵からの電話も取らなかった。
外に出る気力もなく、カーテンの隙間から射す昼の光がやけに白く眩しい。
――もう、距離を置くしかない。
そう思いながらも、心の奥では別の声が囁く。
“本当に彼は、美香と一緒なのか”
答えは誰にも聞けないまま、時間だけが過ぎていく。
午後、宅配便が届いた。
差出人は篠宮グループ本社。
箱を開けると、白い封筒と黒い小箱が入っていた。
封筒の中には短い手紙――
『先日の夜、冷え込んでいたから。喉に気をつけろ』
そして小箱の中には、高級ブランドの蜂蜜とハーブティーの詰め合わせ。
その筆跡は、間違いなく司のものだった。
私は長く息を吐き、手紙を胸元で握り締めた。
どうして今さら、こんな優しさを――。
その夜、葵が突然訪ねてきた。
「沙羅、今ネット見た?」
「見てない」
「これ」
スマホの画面には、ニュースサイトの記事が映っていた。
『篠宮社長、海外出張先で病院訪問』
添えられた写真には、司が医療支援の寄付を行う様子が写っている。
その横に、美香の姿もあったが、控えめに立っているだけ。
「ほら、これよく見て。社長の左手」
葵が画面を拡大する。
そこには包帯が巻かれていた。
「どういうこと……?」
「記事には“移動中に怪我を負ったが軽傷”って書いてあるけど、あなた聞いてないでしょ」
私は言葉を失った。
あの海外出張は、美香と旅行ではなく、慈善活動の一環だった?
そして、怪我をしたのに、私には何も言わなかった――。
翌日、私は本社近くのカフェで資料を読んでいた。
偶然か必然か、そこに司の秘書らしき男性が入ってくる。
電話をしていて、声が耳に入った。
「ええ、社長は本当に無茶をされますから。あの寄付のために現地の施設を直接見に行くなんて」
そして、声のトーンを落として続ける。
「でも、あの件は本人が沙羅様に知られたくないそうです」
――知られたくない?
どうして?
私は席を立ち、男性の姿が見えなくなるまで背中を追った。
夜、自宅に戻ると、ドアの前に紙袋が置かれていた。
中には、私が以前から好きだと言っていたブランドのスカーフ。
タグには、あの筆跡でこう書かれていた。
『似合うと思った』
胸が熱くなり、目頭がじんとする。
でも同時に、疑問が強くなる。
――なぜ、会って直接言わないの?
翌日、神谷から電話が入った。
「この前のパーティーのあと、彼に何か言われた?」
「……特には」
「ならいいけど。彼、僕に“もう沙羅に近づくな”って言ったよ」
驚きで言葉が詰まる。
「……どうしてそんなことを」
「さあ。嫉妬、じゃないかな」
冗談めかしているが、胸の奥の鼓動は速くなる。
もしそれが本当なら――。
夕方、葵から新たな情報が入った。
「司さん、来週帰国するけど、すぐ地方に出張らしいよ」
「また……」
会えないまま、距離だけが広がっていく。
それでも、彼が私を避けているわけではないことを、どこかで信じたい自分がいる。
窓の外に沈む夕陽を見つめながら、私は決めた。
次に会ったとき――必ず聞く。
本当のことを。
その夜、スマホに通知が入った。
差出人は司。
たった一文。
『無理はするな』
私は画面を握りしめ、胸の奥で複雑な感情が渦を巻くのを感じた。
優しさと距離感、その狭間に潜む“真実の欠片”を、早くつなぎ合わせたかった。
神谷からのメッセージには返事をせず、葵からの電話も取らなかった。
外に出る気力もなく、カーテンの隙間から射す昼の光がやけに白く眩しい。
――もう、距離を置くしかない。
そう思いながらも、心の奥では別の声が囁く。
“本当に彼は、美香と一緒なのか”
答えは誰にも聞けないまま、時間だけが過ぎていく。
午後、宅配便が届いた。
差出人は篠宮グループ本社。
箱を開けると、白い封筒と黒い小箱が入っていた。
封筒の中には短い手紙――
『先日の夜、冷え込んでいたから。喉に気をつけろ』
そして小箱の中には、高級ブランドの蜂蜜とハーブティーの詰め合わせ。
その筆跡は、間違いなく司のものだった。
私は長く息を吐き、手紙を胸元で握り締めた。
どうして今さら、こんな優しさを――。
その夜、葵が突然訪ねてきた。
「沙羅、今ネット見た?」
「見てない」
「これ」
スマホの画面には、ニュースサイトの記事が映っていた。
『篠宮社長、海外出張先で病院訪問』
添えられた写真には、司が医療支援の寄付を行う様子が写っている。
その横に、美香の姿もあったが、控えめに立っているだけ。
「ほら、これよく見て。社長の左手」
葵が画面を拡大する。
そこには包帯が巻かれていた。
「どういうこと……?」
「記事には“移動中に怪我を負ったが軽傷”って書いてあるけど、あなた聞いてないでしょ」
私は言葉を失った。
あの海外出張は、美香と旅行ではなく、慈善活動の一環だった?
そして、怪我をしたのに、私には何も言わなかった――。
翌日、私は本社近くのカフェで資料を読んでいた。
偶然か必然か、そこに司の秘書らしき男性が入ってくる。
電話をしていて、声が耳に入った。
「ええ、社長は本当に無茶をされますから。あの寄付のために現地の施設を直接見に行くなんて」
そして、声のトーンを落として続ける。
「でも、あの件は本人が沙羅様に知られたくないそうです」
――知られたくない?
どうして?
私は席を立ち、男性の姿が見えなくなるまで背中を追った。
夜、自宅に戻ると、ドアの前に紙袋が置かれていた。
中には、私が以前から好きだと言っていたブランドのスカーフ。
タグには、あの筆跡でこう書かれていた。
『似合うと思った』
胸が熱くなり、目頭がじんとする。
でも同時に、疑問が強くなる。
――なぜ、会って直接言わないの?
翌日、神谷から電話が入った。
「この前のパーティーのあと、彼に何か言われた?」
「……特には」
「ならいいけど。彼、僕に“もう沙羅に近づくな”って言ったよ」
驚きで言葉が詰まる。
「……どうしてそんなことを」
「さあ。嫉妬、じゃないかな」
冗談めかしているが、胸の奥の鼓動は速くなる。
もしそれが本当なら――。
夕方、葵から新たな情報が入った。
「司さん、来週帰国するけど、すぐ地方に出張らしいよ」
「また……」
会えないまま、距離だけが広がっていく。
それでも、彼が私を避けているわけではないことを、どこかで信じたい自分がいる。
窓の外に沈む夕陽を見つめながら、私は決めた。
次に会ったとき――必ず聞く。
本当のことを。
その夜、スマホに通知が入った。
差出人は司。
たった一文。
『無理はするな』
私は画面を握りしめ、胸の奥で複雑な感情が渦を巻くのを感じた。
優しさと距離感、その狭間に潜む“真実の欠片”を、早くつなぎ合わせたかった。

