週末の昼下がり。
花蓮はキッチンでエプロン姿のまま、スコーンの生地をこねていた。
窓からは春の光が差し込み、テーブルの上には紅茶の香りが広がっている。
「……何をしてる」
背後から低い声。振り向くと、スーツではなくラフなシャツ姿の隼人が立っていた。
「おやつ作りです。今日はレモンとクロテッドクリームで」
「俺の分は?」
「もちろんあります」
花蓮が笑顔で答えると、隼人はキッチンカウンター越しに椅子を引き、そこに腰を下ろした。
「……何をしてるんです?」
「お前を見てる」
「え?」
「ここが俺の特等席だ」
生地をこねる花蓮の手元、額にかかる髪、ふとした横顔――
隼人は飽きもせず、ただ静かに視線を送ってくる。
「そんなに見ていて、飽きませんか」
「飽きない。むしろ、他の誰にも見せたくない」
「またそれですか……」
呆れたように笑いながらも、胸の奥はじんわりと温かい。
オーブンのタイマーが鳴る。
焼き上がったスコーンを皿に並べると、隼人はすぐ手を伸ばし、一つを半分に割って口に運んだ。
「……うまい。お前の作るものは、何でも」
「お世辞でも嬉しいです」
「お世辞じゃない」
午後の光の中、二人の笑い声が静かに重なっていった。
社長の特等席は、今日も変わらずキッチンカウンターの向こう側だった。
花蓮はキッチンでエプロン姿のまま、スコーンの生地をこねていた。
窓からは春の光が差し込み、テーブルの上には紅茶の香りが広がっている。
「……何をしてる」
背後から低い声。振り向くと、スーツではなくラフなシャツ姿の隼人が立っていた。
「おやつ作りです。今日はレモンとクロテッドクリームで」
「俺の分は?」
「もちろんあります」
花蓮が笑顔で答えると、隼人はキッチンカウンター越しに椅子を引き、そこに腰を下ろした。
「……何をしてるんです?」
「お前を見てる」
「え?」
「ここが俺の特等席だ」
生地をこねる花蓮の手元、額にかかる髪、ふとした横顔――
隼人は飽きもせず、ただ静かに視線を送ってくる。
「そんなに見ていて、飽きませんか」
「飽きない。むしろ、他の誰にも見せたくない」
「またそれですか……」
呆れたように笑いながらも、胸の奥はじんわりと温かい。
オーブンのタイマーが鳴る。
焼き上がったスコーンを皿に並べると、隼人はすぐ手を伸ばし、一つを半分に割って口に運んだ。
「……うまい。お前の作るものは、何でも」
「お世辞でも嬉しいです」
「お世辞じゃない」
午後の光の中、二人の笑い声が静かに重なっていった。
社長の特等席は、今日も変わらずキッチンカウンターの向こう側だった。

