窓の外では雪が静かに舞い始めていた。
誤解が解けた夜、屋敷は普段よりも温かく感じられる。
花蓮は自室のドレッサーの前で、淡い光沢のあるネグリジェの肩紐を直しながら、鏡越しに自分の表情を見つめた。
――どこか、柔らかい。
長い間こわばっていた顔が、ようやくほどけた気がする。
ノックの音。
「入ってもいいか」
低く落ち着いた声に、「どうぞ」と答えると、隼人が入ってきた。
ラフな部屋着姿でも、背筋の伸びた立ち方は変わらない。
彼の手には、細長いベルベットの小箱があった。
「渡したいものがある」
隼人は花蓮の前まで来て、小箱を開く。
中には、中央に小さなサファイアをあしらったプラチナの指輪が収まっていた。
「……これ、ブレスレットと同じ色」
「お前に似合う色だ」
「どうして……今?」
「やっと渡せると思ったからだ。これから先も、ずっとお前の隣にいるという証として」
指輪を左手の薬指に滑らせると、ぴたりと馴染んだ。
サファイアの青が、二人の間に芽生えた信頼の色のように輝く。
「花蓮」
名前を呼ばれ、視線を上げる。
「お前を守ると言ってきたが、これからは守るだけじゃない。共に歩く」
短く、しかし揺るぎない宣言。
「……私も、あなたを信じて歩きます」
「約束だ」
隼人は花蓮を抱き寄せ、耳元で低く囁いた。
「もう離さない」
胸に押し当てられた彼の体温が、真っ直ぐに伝わってくる。
大きな窓のカーテンを開けると、雪がしんしんと降り積もっていた。
街灯の下、白い粉雪が舞い、世界を静寂で包み込んでいる。
隼人はその光景を背景に、花蓮の手を取った。
「雪の日は、お前を助けた日を思い出す」
「……あの日から、ずっと私を」
「ああ。ずっと」
雪が二人の間を隔てることはもうない。
互いに見つめ合い、唇を重ねた。
それは長い沈黙を埋めるようでいて、新しい物語の始まりを告げる口づけだった。
暖炉の前に座り、花蓮は隼人の肩に寄りかかる。
炎のゆらめきが、これからの時間を祝福するように温かな光を投げかける。
「これからも……時々、嫉妬してくれますか」
「お前が俺以外に笑えば、な」
「じゃあ、安心ですね」
「安心?」
「だって、あなたが私を見ている証拠だから」
隼人の笑みが、初めて完全に緩んだ。
その笑顔を胸に焼き付け、花蓮は静かに目を閉じる。
雪の降る夜、二人は未来を誓い合い、互いの鼓動を確かめながら眠りについた

