○神崎グループビル 15階 国際事業部 2週間後

美優の周りの雰囲気が明らかに好転している。同僚たちも自然に接するようになった。

田村:「横井さん、最近すごく幸せそうね」

美優:「そうかな」

佐藤:「顔に『幸せです』って書いてあるよ」

美優:「もう、やめてよ」

笑い合う三人。

鈴木係長:「横井さん、プロジェクトの資料、素晴らしい出来ですね」

美優:「ありがとうございます」

鈴木係長:「やはり心が安定していると、仕事の質も向上するものね」

美優、照れる。

美優:「頑張ります」



○神崎グループビル 38階 専務室 昼

美優が資料を届けに来る。もう周囲の目を気にする必要がなくなった。

美優:「お疲れさまです。資料をお持ちしました」

蓮:「ありがとうございます」

自然な業務のやりとり。

蓮:「今夜、お時間はありますか?」

美優:「はい」

蓮:「一緒に夕食を」

美優:「喜んで」

田中秘書が微笑ましそうに見ている。

田中:「お似合いのお二人ですね」

美優:「田中さん…」

田中:「堂々としていて良いじゃないですか」


○高級ホテル スイートルーム 同時刻

宮下麻里子が海外から来た男性・ロバート・ジョンソン(45)と会っている。国際的な投資ファンドの代表。

ロバート:「マリコ、君の提案を聞こう」

宮下麻里子:「神崎グループの経営陣に問題があります」

ロバート:「どのような?」

宮下麻里子:「専務が私的な恋愛関係を優先し、経営判断を誤る可能性があります」

ロバート:「具体的な証拠はあるのか?」

宮下麻里子:「これから作ります」

意味深な表情の麻里子。

宮下麻里子:「大型買収の話を持ち込んで、彼の判断力を試してみましょう」

ロバート:「面白い。やってみよう」



○神崎グループビル 重役会議室 翌週

重役会議に外国人投資家が参加している。

ロバート:「神崎グループに大きな投資機会を提案したい」

山田会長:「どのような?」

ロバート:「東南アジアでの大型開発プロジェクト。投資額は500億円規模だ」

重役たち、驚く。

重役A:「500億円…」

ロバート:「ただし、条件がある」

蓮:「どのような条件でしょうか?」

ロバート:「専務に現地駐在として3年間赴任していただきたい」

蓮、驚く。

蓮:「3年間の駐在…」

ロバート:「このプロジェクトの成功には、トップレベルの人材が必要だ」

山田会長:「素晴らしい提案ですが…」

ロバート:「決断は1週間以内にお願いしたい」


○神崎グループビル 38階 専務室 夕方

蓮、一人で考え込んでいる。

モノローグ(蓮):「3年間の海外駐在…美優さんとの関係はどうなる?」

田中秘書が入ってくる。

田中:「専務、先ほどの件ですが…」

蓮:「はい」

田中:「とても良い条件のようですが、お悩みですね」

蓮:「美優さんのことを考えると…」

田中:「ご相談されてはいかがですか?」

蓮:「そうですね」

田中:「きっと良い解決策が見つかりますよ」

蓮、うなずく。


○高級レストラン 夜

蓮と美優が向かい合って座っている。蓮の表情が重い。

美優:「蓮さん、どうかされましたか?」

蓮:「実は、相談があります」

美優、真剣な表情で聞く。

蓮:「海外駐在の話をいただきました」

美優:「海外駐在?」

蓮:「東南アジアで3年間です」

美優、その重大さを理解する。

美優:「3年間…」

蓮:「とても重要なプロジェクトなんですが…」

美優:「でも?」

蓮:「あなたと離れ離れになってしまいます」

美優、少し考える。

美優:「素晴らしいお仕事なんですよね?」

蓮:「はい」

美優:「だったら…」


美優:「お受けになったらいかがですか?」

蓮:「え?」

美優:「蓮さんにとって大切なお仕事なら」

蓮:「でも、3年間も…」

美優:「私も一緒に行けばいいじゃないですか」

蓮、驚く。

蓮:「一緒に? でも大学は?」

美優:「休学します。蓮さんの方が大切です」

蓮:「そんなことはできません」

美優:「なぜですか?」

蓮:「あなたの夢を諦めさせるわけにはいきません」

美優:「夢は変わることがあります」

蓮:「美優さん…」

美優:「今の私の一番の夢は、蓮さんと一緒にいることです」

蓮:「でも、現実問題として…」

美優:「何ですか?」

蓮:「ビザの問題、生活の問題、言葉の問題…」

美優:「全部解決できます」

蓮:「簡単ではありませんよ」

美優:「でも不可能ではありません」

蓮、美優の決意に感動する。

蓮:「本当にいいんですか?」

美優:「はい。蓮さんと一緒なら、どこででも頑張れます」

蓮:「ありがとう」

手を握り合う二人。

蓮:「一緒に検討してみましょう」

○東京総合病院 恵子の病室 翌日

美優、健人と一緒に母親に相談している。

恵子:「海外? 3年間も?」

美優:「はい」

健人:「姉ちゃん、本当に大丈夫?」

美優:「蓮さんと一緒だから」

恵子:「でも、大学は?」

美優:「休学して、帰ってきてから復学します」

恵子:「そんなに簡単に決められることかしら?」

美優:「お母さん…」

恵子:「美優、あなたの人生よ。後悔のないように選択しなさい」

美優:「はい」

健人:「俺は姉ちゃんが幸せならそれでいいよ」

美優:「健人…」

恵子:「私たちのことは心配しなくていい。自分の気持ちに従いなさい」



○神崎グループビル近くのカフェ

麻里子が美優を監視している。美優が竹内由香と話している様子を見ている。

宮下麻里子(携帯で):「計画通り進んでいるわ」

相手(電話越し):「横井さんも一緒に行くつもりのようですね」

宮下麻里子:「予想通りよ。あの子は蓮さんについて行くでしょう」

相手:「それでどうなさいますか?」

宮下麻里子:「現地で色々と『手配』しておくの」

相手:「どのような?」

宮下麻里子:「学生の女の子が、そんな過酷な環境で3年も耐えられるかしら?」

意味深な笑みを浮かべる麻里子。



○丸の内大学 学生ラウンジ 同時刻

竹内由香:「美優ちゃん、本当に大丈夫?」

美優:「何が?」

竹内由香:「3年間も海外なんて」

美優:「大丈夫よ」

竹内由香:「でも、言葉も分からないし、文化も違うし…」

美優:「何とかなるよ」

竹内由香:「美優ちゃん、無理してない?」

美優:「無理なんてしてない」

竹内由香:「本当に? 蓮さんのために自分を犠牲にしてるんじゃない?」

美優、言葉に詰まる。

美優:「…犠牲だなんて思ってない」

竹内由香:「でも、夢を諦めることになるのよ?」

美優:「夢は…変わることもあるから」

○神崎グループビル 38階 専務室 夕方

蓮が海外駐在の準備について調べている。

モノローグ(蓮):「美優さんを連れて行くとなると、考慮すべきことがたくさんある」

資料を見ながら。

モノローグ(蓮):「住居、安全面、教育機関…彼女のことを第一に考えなければ」

田中秘書が入ってくる。

田中:「専務、現地の情報を調べました」

蓮:「ありがとうございます」

田中:「正直に申し上げて、女性にとっては厳しい環境かもしれません」

蓮、表情を曇らせる。

蓮:「そうですか…」

田中:「でも、横井さんは強い方です。きっと大丈夫ですよ」

蓮:「そうですね」


○美優のアパート 夜

美優、一人で考え込んでいる。

モノローグ(美優):「本当にこれで良いのかな…大学を休学して、海外に…」

健人が部屋に入ってくる。

健人:「姉ちゃん、迷ってる?」

美優:「少し…」

健人:「正直に言ってよ」

美優:「不安なの。でも、蓮さんを一人で行かせるのはもっと不安」

健人:「姉ちゃんらしいや」

美優:「え?」

健人:「いつも家族のことを一番に考えてくれる」

美優:「でも今度は…」

健人:「今度は蓮さんが家族になったんでしょ?」

美優、健人の言葉にはっとする。

美優:「そうね…蓮さんも私の家族」

健人:「だったら、ついて行くべきだよ」


○丸の内公園 夜

蓮と美優が散歩している。

蓮:「美優さん、本当に覚悟はできていますか?」

美優:「はい」

蓮:「途中で帰りたくなっても構いません」

美優:「そんなこと言わないでください」

蓮:「でも…」

美優:「蓮さん、私を信じてください」

蓮、美優の手を握る。

蓮:「信じています。ただ、心配で」

美優:「私も心配です。でも、二人なら大丈夫」

蓮:「そうですね」

美優:「いつ出発ですか?」

蓮:「来月末です」

美優:「準備、頑張りましょう」

蓮:「はい」

星空の下で抱き合う二人。



○美優のアパート 深夜

美優、日記を書いている。

美優(ナレーション):「新しい挑戦が始まる。不安もあるけれど、蓮さんと一緒なら何でも乗り越えられる」

○神崎グループビル 蓮の専務室 同時刻

蓮、夜景を見ながら。

モノローグ(蓮):「美優さんを幸せにしてみせる。彼女の決断に応えなければ」

○高級マンション 麻里子の部屋 同時刻

麻里子、パソコンで何かを調べている。

宮下麻里子:「3年後、あの二人がまだ一緒にいるかしら?」

画面には東南アジアの治安情報や生活環境の資料が表示されている。

宮下麻里子:「楽しみね」

ナレーション(美優):「私たちは新たな挑戦に向かうことになった。海外での3年間は、きっと私たちの絆をより深いものにしてくれるはず。でも、そこには予想もしない試練が待ち受けているのかもしれない──」