翌週の水曜日。
颯真は朝から外部役員会議のため、私は代理で午後の打ち合わせに出席することになった。
場所は、都心の高層ホテルのラウンジ。
ここで、長年取引のある久遠グループの担当者と顔合わせを行う。
「——篠崎常務の秘書の彩花さん、ですよね?」
呼びかけに顔を上げると、そこにはスーツ姿の若い男性が立っていた。
明るい茶色の瞳と人懐こい笑み。
名刺を受け取ると、そこには「久遠玲央」とある。
——久遠グループの御曹司。
社内報でもよく名前を見かける、あの人。
「お噂はかねがね。秘書課でも評判ですよ、彩花さんが一番しっかりしてるって」
「……恐縮です。今日はお時間をいただきありがとうございます」
業務的に返すつもりだったが、玲央は椅子に腰を下ろすと、あっさりと距離を縮めてきた。
「こんな綺麗な人が隣にいたら、篠崎常務も仕事がはかどるでしょうね。……あ、笑ってくれた」
「いえ、そんな——」
「今度、仕事抜きでランチでもどうですか?」
さらりと誘ってくるその口調に、返答に迷っていると——
「お断りだ」
背後から低い声が落ちた。
心臓が跳ね、振り返ると、颯真が立っている。
予定より早く会議を終えて戻ってきたらしい。
「常務……」
「この打ち合わせは、私が引き継ぐ。彩花、資料を」
業務的な口調だが、その視線は明らかに冷たい。
玲央は一瞬目を細め、しかしすぐ笑顔を作った。
「さすが常務、護衛が早いですね」
「護衛ではない。——部下を守るのは上司として当然だ」
短いやり取りの中に、鋭い火花が散るのを感じた。
帰宅後。
リビングに入ると、颯真はジャケットを脱ぎ、ワイングラスを片手に窓辺に立っていた。
「……あの御曹司、馴れ馴れしいな」
「ただの挨拶です。お仕事で——」
「仕事であっても気に入らない」
「……職場では他人なのに?」
皮肉めいた言葉に、彼の眉がわずかに動く。
そして一歩近づき、私の顎を指先で持ち上げた。
「他人じゃない。お前は——俺の妻だ」
その言葉の重みと、真っ直ぐな視線に、息が詰まる。
——この人は、私をどこまで守るつもりなのだろう。
颯真は朝から外部役員会議のため、私は代理で午後の打ち合わせに出席することになった。
場所は、都心の高層ホテルのラウンジ。
ここで、長年取引のある久遠グループの担当者と顔合わせを行う。
「——篠崎常務の秘書の彩花さん、ですよね?」
呼びかけに顔を上げると、そこにはスーツ姿の若い男性が立っていた。
明るい茶色の瞳と人懐こい笑み。
名刺を受け取ると、そこには「久遠玲央」とある。
——久遠グループの御曹司。
社内報でもよく名前を見かける、あの人。
「お噂はかねがね。秘書課でも評判ですよ、彩花さんが一番しっかりしてるって」
「……恐縮です。今日はお時間をいただきありがとうございます」
業務的に返すつもりだったが、玲央は椅子に腰を下ろすと、あっさりと距離を縮めてきた。
「こんな綺麗な人が隣にいたら、篠崎常務も仕事がはかどるでしょうね。……あ、笑ってくれた」
「いえ、そんな——」
「今度、仕事抜きでランチでもどうですか?」
さらりと誘ってくるその口調に、返答に迷っていると——
「お断りだ」
背後から低い声が落ちた。
心臓が跳ね、振り返ると、颯真が立っている。
予定より早く会議を終えて戻ってきたらしい。
「常務……」
「この打ち合わせは、私が引き継ぐ。彩花、資料を」
業務的な口調だが、その視線は明らかに冷たい。
玲央は一瞬目を細め、しかしすぐ笑顔を作った。
「さすが常務、護衛が早いですね」
「護衛ではない。——部下を守るのは上司として当然だ」
短いやり取りの中に、鋭い火花が散るのを感じた。
帰宅後。
リビングに入ると、颯真はジャケットを脱ぎ、ワイングラスを片手に窓辺に立っていた。
「……あの御曹司、馴れ馴れしいな」
「ただの挨拶です。お仕事で——」
「仕事であっても気に入らない」
「……職場では他人なのに?」
皮肉めいた言葉に、彼の眉がわずかに動く。
そして一歩近づき、私の顎を指先で持ち上げた。
「他人じゃない。お前は——俺の妻だ」
その言葉の重みと、真っ直ぐな視線に、息が詰まる。
——この人は、私をどこまで守るつもりなのだろう。

