久しぶりの完全オフ。
 朝の陽射しがカーテンの隙間から差し込み、私はゆっくりと目を開けた。
 隣には、寝起きとは思えないほど整った顔の颯真が、腕枕の形で私を抱き寄せている。

「……おはよう」

「もう少しこうしていたい」

 低く掠れた声に、胸がくすぐったくなる。
 仕事中は絶対に見せない表情で、彼は私の髪を指先で梳いていた。



 午前中は二人で街へ出かけた。
 休日の颯真は、スーツではなくシンプルなジャケット姿。
 それでも歩いているだけで周囲の視線を集める。

「何か食べたいものは?」

「……パンケーキとか」

「いいな。じゃあ美味しい店に行こう」

 颯真は自然に私の手を取り、人混みの中を歩いていく。
 公表前は人目を避けていたこの距離感が、今は堂々としていて心地いい。



 カフェで並んで座り、甘いパンケーキを分け合う。
 フォークで一口分を差し出され、少し照れながら口に入れると——

「……美味しい」

「俺が食べさせたからな」

「それ、味に関係ないです」

「関係ある」

 真顔で言うので、思わず吹き出してしまう。



 夕暮れ、川沿いの道を歩きながら、颯真がふと立ち止まった。

「彩花。……これから先も、ずっと隣にいてくれ」

「もちろんです」

 即答すると、彼の唇が微かに弧を描き、そしてそのまま私の額に口づけが落ちた。

「愛してる」

 短く、それでいて全てを含んだ言葉。
 公表前も、後も、颯真は変わらず——いや、むしろ今の方がずっと、私を甘やかしてくれている。

 川面に映る夕日がゆっくりと沈む中、私は彼の腕の中で、小さく微笑んだ。