「……白河会長にキスはされてないよ」
 
「! 本当か」
 
「本当。ちょっとずれて……この辺だった」

 唇の端っこ、どちらかといえばギリギリほっぺた。
 購買で買ってきたお惣菜パンを食べながら指させば、真神はそこを穴が空くほど凝視してきた。
 
 ……本当に穴が空くかも。

「だから、平気。もう心配しないで。これから白河会長には気をつけるから」
 
 あんなことがあったんだもの。
 なるべく、ふたりっきりにならないように、隙を作らないように動く必要がある。
 そう決意してパンをぱくついていると、真神の指が髪を撫でてきた。
 
「平気じゃないだろう。怖い思いをさせた……すまない」
 
「……真神のせいじゃないよ」
 
「美羽。これからは後悔のないよう、もっときちんと守る。片時も傍を離れない。約束する」
 
「片時も……って、それはちょっと……無理、じゃない?」
 
 学校だけならともかくプライベートは問題大アリだ。
 その意気込みはとても心強いけど、真神にはせっかく人間になったんだから人間の暮らしを楽しんでほしいもの。

「心配するな。狼になったりユーレイに戻ったり、あらゆる手段を駆使して守ってみせるさ」
 
「それ、別の意味で心配だらけなんですけど……」

「……まあ、美羽にもらったこの肉体をそう簡単に手放すつもりもない。一番居心地がいいし……」

 そう言って真神はしなやかに近づくと、私の顎をくいと持ち上げた。
 琥珀色の瞳が目の前に迫る。

「いつだって美羽に触れられる」
 
「……っ!」

 赤くなった私の頬が真神の大きな手のひらに包まれる。
 
 わ、わわ。
 
 これってもしかして、キ、キス……!?

 
「ただいまー! 購買でプリン買えたよー。でーも他の生徒から手芸部新作はいつ? って質問攻めにあってもーう大変っ」
 
「それだけ美羽さんの作品が多くの心を掴んだということですね。誇らしいです」

 …………あ。
 計兎くんと鹿弥さん、帰ってきちゃった。

「…………真神?」

「……チッ」

 今、舌打ちした!?

「あーー! 真神ったら、まーた美羽ちゃんに迫ってる! ったく油断も隙もないんだから!」
 
「美羽さん、護身用に俺の角でも持っててください。真神が何かしでかしたらこうバキっと」
 
「待て待て待て! どうしてそうお前たちはすぐ俺を仕留めようとするんだ!」

 いつもの賑やかさで真神を追い詰める計兎くんに、笑顔でとんでもないことを言い出す鹿弥さん。
 そんな彼らには真神もたじたじだ。

「……もう、ケンカしないの! これから手芸部新作のアイディア練るんだから、意見出して!」

 ぱんぱんと手を叩いて彼らの前に立つ。
 3人はそれぞれの位置に座り直して私を見上げた。

「ユーレイ部員の皆さん? これからも部長を助けてくれますか?」

「もちろんだ」
 
「お任せを」
 
「はーいっ!」

 順番に手を上げた彼らと私の手首にはお揃いのミサンガ。

 新・手芸部が紡いでいく未来は、まだ始まったばかりだ!