廃部寸前な手芸部ですが、ユーレイ部員が助けてくれるようです!?

「目的は何であれ、美羽に近づくなら容赦しない」

 腕一本が、ガードするように私と白河会長を遮った。
 真神の腕だ。

 白河会長は吐息だけで笑って身を引く。

「狼にはこの間、手下が酷い目に遭わされたからね。あれは可哀想だったなあ。狼の一撃は普通のカラスには致命傷だよ」

 初めて真神に会った時のことが蘇る。
 私を取り囲んでいたカラスを、次から次へとその牙で、その爪で撃退していた真神のあの荒々しさは忘れることなんてできやしない。

 っていうか……手下って。
 カラスが?
 
 それに、真神は白河会長のことをカラスと呼んでいた。
 普通のカラスなら致命傷……なら。

「あなたは普通じゃないカラス……なの?」

 真神の腕に守られながら白河会長に問いかける。
 パチン、と指を鳴らした白河会長は「その通り!」と花のような笑顔を振りまいた。
 胸に手を添え、王子様のようなお辞儀を披露する姿を見ると、ここが現実と地続きだと忘れてしまいそう。

「東雲さんの洞察力に敬意を表して、改めて自己紹介しよう。白河眞墨は人間としての名前。本当の俺はヤタガラスさ」
 
「ヤタガラス……?」
 
 
 どこかで聞いた気がする名前だ。
 アニメやゲームだったかもしれない。
 すぐに思い出せずにいると、隣にいた鹿弥さんがそっと耳打ちしてくれた。
 
「ヤタガラスは伝説上のカラスです。三本の脚を持っているとされ、その正体は、太陽の神の――神使(ミサキガミ)

 
 ミサキガミ!
 白河会長も!?
 
 
「ふふ、驚いているね。可愛いな」
 
「か、可愛いとか、今更言われてもっ」

 そうだ。
 いくら優しいことを言っても、白河会長が手芸部を潰そうとしていたラスボスなんだ。
 胸の前で身を守るように両手を握る。
 手首に何かを感じて見れば、白河会長につけられた黒いバングルがぎらりと存在を主張していた。

「……っ!」

 嫌だ。
 こんなのにほだされてたなんて!
 私のバカっ!

 力任せにバングルを外そうとするけれどうまくいかない。
 むしろ手首をギリギリと締めつけてくるような痛みに悲鳴が上がる。

「美羽ちゃん!」
 
「っな、んで……外れないのっ」

 計兎くんが手伝ってくれようとしても上手くいかない。

 バチッ!

「うわあっ!」
 
 静電気のような衝撃に弾かれて計兎くんが尻もちをついた。

「計兎くん!」

「狼と違ってお喋りウサギなら……化けの皮を剥ぐのも簡単かな」

 白河会長の手には真っ黒な羽根が握られていた。
 
 それをかざした白河会長は、ナイフの切っ先を突きつけるように計兎くんに狙いを定める。
 計兎くんはわざと挑発するように顎を上げた。
 
「へえ……弱いモノから片付けようって言うんだ? ミサキガミの名が廃るよ」
 
「ふふ……そのよく動く口は目障りだな」

 羽根が振り上げられる。
 
「計兎!」

 鹿弥さんがとっさに間に入る。
 白河会長を止めようとすると真神の腕に閉じ込められた。

 
 これじゃ計兎くんが危ない!
 
 待って、こんな、こんなの……

 
「ダメーっ!!」