廃部寸前な手芸部ですが、ユーレイ部員が助けてくれるようです!?

 突然の質問に詰まった大橋先生に、鹿弥さんはもう一度語りかける。
 
「ああ、ビーズはお嫌いですか? それなら刺繍糸、一束110円でも構いません。先生はその値段で、これだけのミサンガが作れますか?」

 鹿弥さんは手を上げて、手首に巻かれたミサンガを見せつけた。
 私が鹿弥さんの色に合わせて作った、世界にひとつだけのミサンガだ。

「材料費だけで事足りるのでしたら、アクセサリーを買う人間はいなくなりますよ。自分で作る方が安上がりですからね。ですが、美羽さんの作った作品はその値段以上の価値がある。魅力がある。持っていたくなる。だから昨日ここを訪れたお客様は買っていったのです」

 鹿弥さんのサポートをするように、隣に立った計兎くんがタブレットを数回タップして画面を変える。
 売上商品のリストだ。

「ダイヤモンドアートのコースター、つまみ細工の根付、シュシュ、ハットピン……これだけの商品を作るには材料費はもちろん、美羽ちゃんの手間と時間がかかってる。試行錯誤した結果、ボツになったものだってある。それって利益に計上されない。
 つーまーり。お金に替えられないのさ。
 わ・か・る?」

 いつも快活で、飛び跳ねるように喋る計兎くんの声色がどんどん低くなっていく。
 外見から想像もできないドスの効いた声に大橋先生がたじろぐと、その機を逃すかとばかりに畳み掛けた。
 
「ちなみに単価の設定は文化祭実行委員会が出してる推奨レートで計算してるから、ぼったくりには当たらない。疑うならここにある仕入れリストからひとつひとつ計算して確認してよ。それにこのタブレットだって文化祭実行委員からの貸与品。教員権限のセーフガードがかかってるから、妙なアプリ入れて数字を誤魔化そうとしたら一発アウトなんて、先生ならご存知だよねーえ?」

 計兎くんお得意のマシンガントークがこれでとかとばかりに炸裂した。
 
 息もつけないほどにまくしたてた主張、主張、主張。
 全部が正論だけに口を挟むことすら許されない。
 最後の余韻で魅せようという作戦なのか、語尾だけをわざと重たげに伸ばしてから軽く唇を尖らせる姿は、映画でよく見る、乱射した後の銃口から立ち上る煙をふっと吹き消す仕草によく似ていた。

 ぱくぱくと金魚のように口を開けるだけになった大橋先生は、それでも何か文句をつけたいらしく「あな、あなた、あなたたち」と意味の無い呼びかけを繰り返している。
 そこで真神にとんとんと肩を叩かれた。
 
「美羽、スマホ。学内SNSを見てみろ」
 
「え?」

 先生の目の前でスマホをいじる居心地の悪さはあれど、真神に促されては仕方ない。
 学内SNSアプリを開く。
 真っ先に表示されたのはトレンドワードだった。