「可愛さアピールなら編みぐるみ、オシャレ感出すならビーズアクセ、渋めに和小物でいくならちりめん細工……ってとこかな」
 
 放課後、私はひとりで下校しながら対策を色々と考えていた。
 
 どうやって部員を集めるかは行き詰まったので、魅力的な作品を考えることにしたのだ。
 
 SNSで検索し、思いついたアイディアをひたすらスマホのメモ帳に打ち込む。
 
 どれも可愛い。すごく可愛い。
 
 けど、爆発的ヒットになる?
 
 ……この問いに大きく頷けないのが辛い。
 
「どれも好きなのに……どうして数字で評価されなきゃいけないのかなあ」
 
 コンマ1秒でも速く走ることを目標とする陸上や、点数の多いほうが勝つ球技と違って、手芸に点数はつかない。
 
 他人から見て不細工な作品だって、自分が一生懸命頑張って作ったものなら、歪んだ箇所だって愛着が湧く。
 
 そういうものと、点数は相性が悪い――と私はそう思う。
 
「でも、数字云々を持ち出したのは私だし、その方がわかりやすいんだよね……そもそも今まで通り自己満じゃダメだから廃部ってことになったんだし……」
 
 うわああ……!
 何なの、この堂々巡りの悪循環は!
 
 頭を抱えて立ち止まる。
 もしかして私、自分で自分を袋小路に追い詰めているんじゃない?
 
「こら、歩きスマホ禁止」
 
「はいいっ!!?」
 
 とん、とリュック越しに振動。
 
 ぱっと振り向けば、西日をバックに背負った男子生徒が逆光で私を見下ろしていた。
 
「……?」
 
 逆光のせいで顔をうまく見られなくて、すぐに言葉が出ない。
 その時、肩に手を添えられてぐっと抱き寄せられた。
 
「!?」
 
 なんで。どうして。
 
 突然のイベントに混乱が隠せない。
 
 すると、彼の腕越しに後ろから来ていた車が走り去っていった。
 
「……あ」
 
 そうか。歩きスマホしてたから気づけなかったんだ。
 もし彼が移動させてくれなかったら……そう考えるとゾッとした。
 
「あ、あの、すみませんでした」
 
「わかればいいんだ。通学路といえども、結構スピード出す車も多いから気をつけて」
 
 移動したことで太陽との位置が変わる。
 
 そうだ、このゆったりした話し方。この甘いマスク。
 
「生徒会長……?」
「そう。白河(しらかわ)といいます。きみは……東雲さんだね。手芸部の部長さんだ」
「! は、はい。そうです。手芸部部長、東雲美羽と申しますっ!」
 
 まさか生徒会長に覚えてもらっているとは思わず、気をつけの姿勢から勢いよく頭を下げた。
 白河会長はくすくすと笑う。
 
「東雲美羽さんか。フルネーム、覚えておくね」
 
「ありがとうございます……」
 
 そう答えてからこれはいったい何に対するお礼なのかとハテナマークが浮かんだけれど、白河会長の静かな笑顔の前にそんな疑問は排気ガスと共に消え去ったのだ。