「ありがとうございましたー!」
ぺこりとお辞儀をして最後のお客さんを見送る。
この「最後の」というのは1日目の閉幕時間が迫ったからではなく、ましてこれ以上の来客が見込めないなんていう悲劇でもない。
売り切れてしまったのだ。
すべての商品が。
せっせとバックヤードと陳列棚を往復していた甲斐があって、店頭分も在庫分も完売。
ゼロ。
サンプルとして置いていたものも売れてしまった。
サンプルでもいいから欲しい! なんて嬉しい言葉と共に買われていったあの作品やこの作品が、持ち主の幸せに貢献してくれているならこんなに嬉しいことはない。
「ほわああ……」
脱力して椅子にへたりこんでしまう。
お客さんが来るたびに感激していられたのは最初のうちだけで、後半戦はひたすら品出しに励んでいたから足も腰もカクカクして力が入らない。
「わわ、美羽ちゃん! 気絶するのはちょっと待って」
焦った様子の計兎くんが飛び跳ねながらタブレット端末を持ってきた。
いつのまにか用意されていたこれは、簡易レジとして今日を戦いぬいた戦友だ。
数回画面をタップした計兎くんが、くるりと画面を私に見せる。
そこには今日一日の売上が表示されていた。
桁が、多い。
一目見た感想がこんなのだなんて情けない。
だけど、へろへろに疲れた目では3桁ごとに区切られたカンマを認識できなかったのだ。
え、待って。
いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……
万!?
もう一度数えてみる。
やっぱり桁は変わらない。
「こ、これ、ほんとに?」
赤い瞳をにんまりと細めた計兎くんは大きく頷く。
「純粋な売上額としてはこれ。で、文化祭実行委員会に払う分とか、材料費……まあ諸経費ってやつだね。それを引くとこれ。それでも相当頑張ったんでなーい? 俺たち」
とんとんとタップされた数字を瞬きして見つめる。
うそ……
達成してしまった。
しかも文化祭1日目で。
っていうか明日の2日目に売るものがないんだけど!?
むしろそっちの方が問題では!?
「ね、ど、どうしよう」
「ん?」
くん、と袖を引くと、真神はこちらを覗き込んできた。
「明日、売るものなくなっちゃった。今日徹夜して何か作らなきゃだよね?」
どうしようどうしよう。
何作ろう!?
っていうか何作れる!?
工程が少なくて、材料がまだあるもの。
できれば細かい作業なしで、大雑把でも見栄えがするもの……
そんな欲張りてんこ盛りなプランを頭の中で組み立てながら真神に縋る。
すると、真神はぶっと豪快に噴き出した。
「強欲だな。更に圧倒的勝利が必要か?」
「へっ? ち、違う! だって文化祭は明日もあるんだよ。今日買ってくれたひとが宣伝してくれて、また新規でお客さんが来るかもしれない。それなのに売るものがないなんて詐欺じゃん!」
真神との間でものすごい誤解が生まれてる。
だから必死に説明していたんだけど……
このニヤつき具合、どうやら私が必死な顔をしてるのが面白いだけだな?
とんとん、と肩を叩かれて振り向くと、鹿弥さんが眉を八の字にして苦笑していた。
「真神、悪趣味ですよ」
「いや、お前もこの立場になればわかる。美羽が縋り付いてくるんだぞ。庇護欲がはちきれそうだ」
「あなたは勝手にはちきれて爆発四散していてください。それで、美羽さん」
「は、はいっ」
良かったあ。
鹿弥さんなら話が通じる!
「こんな時にぴったりな呪文を教えてあげます。明日は入口に掲げておけば、あらゆる災厄から守ってくれることでしょう」
「そ、そんな万能呪文が? ミサキガミパワーってやつです?」
「いいえ。美羽さんもよーく知ってる4文字です」
そう言うと、鹿弥さんは手近にあった大きめの厚紙に筆ペンでさらさらと何かをしたためた。
くるりと振り向いてそれを見せてくれる。
中央に堂々と書かれたその4文字は――
完売御礼
「ね? この上なく簡潔でしょう」
「ハイ……」
脱力した。
いや、それで済むならあらゆるトラブルはそもそも生まれないと思うのですが……
ぺこりとお辞儀をして最後のお客さんを見送る。
この「最後の」というのは1日目の閉幕時間が迫ったからではなく、ましてこれ以上の来客が見込めないなんていう悲劇でもない。
売り切れてしまったのだ。
すべての商品が。
せっせとバックヤードと陳列棚を往復していた甲斐があって、店頭分も在庫分も完売。
ゼロ。
サンプルとして置いていたものも売れてしまった。
サンプルでもいいから欲しい! なんて嬉しい言葉と共に買われていったあの作品やこの作品が、持ち主の幸せに貢献してくれているならこんなに嬉しいことはない。
「ほわああ……」
脱力して椅子にへたりこんでしまう。
お客さんが来るたびに感激していられたのは最初のうちだけで、後半戦はひたすら品出しに励んでいたから足も腰もカクカクして力が入らない。
「わわ、美羽ちゃん! 気絶するのはちょっと待って」
焦った様子の計兎くんが飛び跳ねながらタブレット端末を持ってきた。
いつのまにか用意されていたこれは、簡易レジとして今日を戦いぬいた戦友だ。
数回画面をタップした計兎くんが、くるりと画面を私に見せる。
そこには今日一日の売上が表示されていた。
桁が、多い。
一目見た感想がこんなのだなんて情けない。
だけど、へろへろに疲れた目では3桁ごとに区切られたカンマを認識できなかったのだ。
え、待って。
いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……
万!?
もう一度数えてみる。
やっぱり桁は変わらない。
「こ、これ、ほんとに?」
赤い瞳をにんまりと細めた計兎くんは大きく頷く。
「純粋な売上額としてはこれ。で、文化祭実行委員会に払う分とか、材料費……まあ諸経費ってやつだね。それを引くとこれ。それでも相当頑張ったんでなーい? 俺たち」
とんとんとタップされた数字を瞬きして見つめる。
うそ……
達成してしまった。
しかも文化祭1日目で。
っていうか明日の2日目に売るものがないんだけど!?
むしろそっちの方が問題では!?
「ね、ど、どうしよう」
「ん?」
くん、と袖を引くと、真神はこちらを覗き込んできた。
「明日、売るものなくなっちゃった。今日徹夜して何か作らなきゃだよね?」
どうしようどうしよう。
何作ろう!?
っていうか何作れる!?
工程が少なくて、材料がまだあるもの。
できれば細かい作業なしで、大雑把でも見栄えがするもの……
そんな欲張りてんこ盛りなプランを頭の中で組み立てながら真神に縋る。
すると、真神はぶっと豪快に噴き出した。
「強欲だな。更に圧倒的勝利が必要か?」
「へっ? ち、違う! だって文化祭は明日もあるんだよ。今日買ってくれたひとが宣伝してくれて、また新規でお客さんが来るかもしれない。それなのに売るものがないなんて詐欺じゃん!」
真神との間でものすごい誤解が生まれてる。
だから必死に説明していたんだけど……
このニヤつき具合、どうやら私が必死な顔をしてるのが面白いだけだな?
とんとん、と肩を叩かれて振り向くと、鹿弥さんが眉を八の字にして苦笑していた。
「真神、悪趣味ですよ」
「いや、お前もこの立場になればわかる。美羽が縋り付いてくるんだぞ。庇護欲がはちきれそうだ」
「あなたは勝手にはちきれて爆発四散していてください。それで、美羽さん」
「は、はいっ」
良かったあ。
鹿弥さんなら話が通じる!
「こんな時にぴったりな呪文を教えてあげます。明日は入口に掲げておけば、あらゆる災厄から守ってくれることでしょう」
「そ、そんな万能呪文が? ミサキガミパワーってやつです?」
「いいえ。美羽さんもよーく知ってる4文字です」
そう言うと、鹿弥さんは手近にあった大きめの厚紙に筆ペンでさらさらと何かをしたためた。
くるりと振り向いてそれを見せてくれる。
中央に堂々と書かれたその4文字は――
完売御礼
「ね? この上なく簡潔でしょう」
「ハイ……」
脱力した。
いや、それで済むならあらゆるトラブルはそもそも生まれないと思うのですが……


