す、すごい。
売れた。売れてしまった……!
鹿弥さんのジェントル接客術と計兎くんの畳みかけ値引き交渉術。
奇跡のコラボとして手芸部の部史に残したいレベルの神業だ。
「ま、まか、真神、売れたよ」
そばについててくれてる真神の腕にぎゅうぎゅう抱きついてお客さんたちを凝視する。
たった1回、値引きも含めて500円にも満たない売上だけど、この500円未満からものすごいことが始まるかもしれないのだ。
あ、似たようなこと、英語の授業でやったな。あれは宇宙飛行士の名言だったっけ?
「わかったわかった。しがみついてくれるのは嬉しいが、今は後にしてくれ」
私の手からするりと抜け出した真神はお客さんの方へ歩いていく。
「どうしたの?」
「仕上げだ」
お客さんが支払いをしていると、真神は小さく会釈して商品を紙袋に詰めていく。
その時、真神の指先に琥珀色の光が灯った。
「えっ」
花火みたいな一瞬の瞬き。
でも、お客さんの目を惹くには充分だった。
「あの、今の……」
「ああ。当店の作り手には魔法が宿っていましてね。それがお客様の心とマッチするとこのように光るんです」
そ、そうなの!?
その、設定どこから来た!?
「これをお使いになったお客様の一日が、いつもよりほんの少し良いものでありますように」
その、言葉は。
私が真神たちに語っていたことだ。
――私の作品が、誰かを笑顔にできればなって。少しでも、楽しい気持ちで過ごしてくれたらなって。
真神が言ってた仕上げって。
涼ちゃんにドヤ顔で話していたのは、口から出まかせじゃなかった。
――この指から溢れる魔法を、美羽にも見えるようにしてやる。
そうだ。真神はそう言った。
私の思いを見えるようにしてやるって……こういう、こと?
商品が入った紙袋を手にしたお客さんたちは顔を見合せて何やら話し込んでいる。
今、目にしたものが何なのか信じられないみたいだ。
そりゃそうだ。
マジックか、ジョークグッズの仕掛け。
でも、そんなありきたりな理由をつけて納得できるほど、真神の手腕はちゃちじゃない。
浮き足立ってるお客さんに、真神は口の端を少しだけ上げて微笑んだ。
「よろしければ、お友だちにもご紹介ください」
きゃあ! とハイっ! の黄色い声が同時に聞こえた。
お見送りをするため出入口で待機していた鹿弥さんが真顔で小さくガッツポーズする。
あ、ここまでが計算づくだったのね。
確かに彼女たちを起点として、口コミやSNSに上げてくれれば一気に来客が見込める。
イケメンのバラエティ豊かな接客に、非日常の魔法のエッセンスをひとさじ。
一度見てみたい、と思わせたら勝ちだ。
お客様第1号たちがスマホ片手に退店するのを、頭を下げて見送りながらそう分析して感心していたのだけど、一点、モヤモヤが残る。
――真神の笑顔、安売りしてほしくないな。
ぐるりと渦巻いたその感情に気づいて、ぱっと慌てて首を振る。
視線の先には、まるで私が顔を上げるのを待っていたかのようにこちらを見つめる真神がいて。
……く、くやしい!
思わずぷいっとそっぽを向いた。
まあ、次のお客様が来たからなんだけどね!
私だって接客しなきゃだし?
真神のことなんて、意識してないんだから!
売れた。売れてしまった……!
鹿弥さんのジェントル接客術と計兎くんの畳みかけ値引き交渉術。
奇跡のコラボとして手芸部の部史に残したいレベルの神業だ。
「ま、まか、真神、売れたよ」
そばについててくれてる真神の腕にぎゅうぎゅう抱きついてお客さんたちを凝視する。
たった1回、値引きも含めて500円にも満たない売上だけど、この500円未満からものすごいことが始まるかもしれないのだ。
あ、似たようなこと、英語の授業でやったな。あれは宇宙飛行士の名言だったっけ?
「わかったわかった。しがみついてくれるのは嬉しいが、今は後にしてくれ」
私の手からするりと抜け出した真神はお客さんの方へ歩いていく。
「どうしたの?」
「仕上げだ」
お客さんが支払いをしていると、真神は小さく会釈して商品を紙袋に詰めていく。
その時、真神の指先に琥珀色の光が灯った。
「えっ」
花火みたいな一瞬の瞬き。
でも、お客さんの目を惹くには充分だった。
「あの、今の……」
「ああ。当店の作り手には魔法が宿っていましてね。それがお客様の心とマッチするとこのように光るんです」
そ、そうなの!?
その、設定どこから来た!?
「これをお使いになったお客様の一日が、いつもよりほんの少し良いものでありますように」
その、言葉は。
私が真神たちに語っていたことだ。
――私の作品が、誰かを笑顔にできればなって。少しでも、楽しい気持ちで過ごしてくれたらなって。
真神が言ってた仕上げって。
涼ちゃんにドヤ顔で話していたのは、口から出まかせじゃなかった。
――この指から溢れる魔法を、美羽にも見えるようにしてやる。
そうだ。真神はそう言った。
私の思いを見えるようにしてやるって……こういう、こと?
商品が入った紙袋を手にしたお客さんたちは顔を見合せて何やら話し込んでいる。
今、目にしたものが何なのか信じられないみたいだ。
そりゃそうだ。
マジックか、ジョークグッズの仕掛け。
でも、そんなありきたりな理由をつけて納得できるほど、真神の手腕はちゃちじゃない。
浮き足立ってるお客さんに、真神は口の端を少しだけ上げて微笑んだ。
「よろしければ、お友だちにもご紹介ください」
きゃあ! とハイっ! の黄色い声が同時に聞こえた。
お見送りをするため出入口で待機していた鹿弥さんが真顔で小さくガッツポーズする。
あ、ここまでが計算づくだったのね。
確かに彼女たちを起点として、口コミやSNSに上げてくれれば一気に来客が見込める。
イケメンのバラエティ豊かな接客に、非日常の魔法のエッセンスをひとさじ。
一度見てみたい、と思わせたら勝ちだ。
お客様第1号たちがスマホ片手に退店するのを、頭を下げて見送りながらそう分析して感心していたのだけど、一点、モヤモヤが残る。
――真神の笑顔、安売りしてほしくないな。
ぐるりと渦巻いたその感情に気づいて、ぱっと慌てて首を振る。
視線の先には、まるで私が顔を上げるのを待っていたかのようにこちらを見つめる真神がいて。
……く、くやしい!
思わずぷいっとそっぽを向いた。
まあ、次のお客様が来たからなんだけどね!
私だって接客しなきゃだし?
真神のことなんて、意識してないんだから!


