「いらっしゃいませ。どうぞ、サンプルをお手に取ってご覧下さい」
 
「こちらのお品物、3色セットで購入いただくと3パーセントオフにさせていただきまーす」
 
 私が紙パックのアイスティーを握りしめて見つめている間に、鹿弥さんと計兎くんは接客スマイル5割増しで流れるようにお客さんをさばいていく。
 
 それぞれ売り物とは別にひとつ余分に作って、と頼まれたのはサンプル用だったのか。
 どの商品もカラバリ豊かに揃えておいてと言われたのはこういうことだったのか。

 ……商売上手なミサキガミって、アリ?

 そんなことを思いつつも助けになっているのは紛れもない事実だ。
 
 女子の集団にはより丁寧に、男女で来たお客さんとは、必要以上に女性客には近づかないように。
 そんな絶妙な距離感のバランスを保ちながら接客している鹿弥さんの名店員ぷりは群を抜いていた。

 
 ……はっ、奈良の鹿!
 一年中、ひっきりなしに押し寄せる観光客のあしらいなんてお手の物だ。
 一見もみくちゃにされているように見せかけつつも、時に甘え、時に力技で鹿せんべいを我がものにするあのガッツ。
 
 あれが鹿弥さんにも息づいているのだとしたら……
 うん、お手上げだ。

 
「ねえねえ、これマケてくれない?」
 
「うーん。そうしたいのは山々なんだけど、原材料費ってのもあるからねー」

 OGらしき高校生に詰め寄られても涼しい顔をしているのは計兎くんも同じだ。
 頭の中でソロバンをはじいているのかエクセルをフル稼働させているのか……どちらにしても商品をひと目見ただけで、値切りに対応するかしないか判断していなしている。
 
「そっかー。じゃあこのビーズアクセだけでいいかなあ」

「ぬぬ!? ちょーっと待ったあ!」
 
 お会計に向かおうとした高校生を呼び止めた計兎くんは、同じくビーズで作ったダイヤモンドアートのコースターをびしっと見せつけた。
 
「この透明感のある色合いを見てみてみてー! この上に好きな飲み物置いて写真撮ったらなかなか涼しげで映えるんでなーいっ?」
 
 す、すごい!
 確かに、コルクのコースターに敷き詰められたビーズは光をきらきら反射してキレイだ。
 ブルーキュラソーあたりで色つけしたフレーバーティとかを窓辺に置いて撮れば、非日常の演出になるかも。
 さすが計兎くん、映えに強い!
 
「わあ! それっていいかもー!」
 
「でしょでしょー。映えって一時の儚きエモさの夢の跡だから、よりきれいな状態で残したいよね。おねえさんたち、2枚セットでこのコースターを買ってくれたらこっちのアクセもお安くしちゃうっ」
 
「えー! それなら買う! ね、一緒に撮って写真アップしようよー!」
 
「するするっ」
 
「毎度お買い上げありがとーございます!」

 チーン♪ とレジの音が響き渡ってお会計。

 う……売れ、売れたあっ!