ついに文化祭当日がやってきた。
 今日と明日の2日間、学校内外の人でごった返して賑やかになるお祭りの始まりだ。
 
 性別も年齢もバラバラな集団がかもし出す熱気にあてられてドキドキしてくる。
 
 緊張してる?
 はたまた武者震い?
 一世一代の大勝負だもの。武者震いくらいのほうがちょうどいいかもしれない。
 
「わ、わ! こっちの棟に、ひとが、ひとが来ている! 近づいてる!」
 
「まあ来るだろうな」
 
「特別教室棟のど真ん中だもんね」
 
「外から見えるように垂れ幕まで飾りましたし」
 
 そう。
 私たち手芸部に割り当てられた部屋は、いつものどん詰まり空き教室の部室ではなかった。
 ライブ会場でいうところのアリーナ、普通教室でいうところの教壇の真ん前。
 つまり、一等地というやつだ。
 他の部だってここを狙っていたはずなのに、どうして手芸部がここを使えることになったんだろう?
 
「そーんなの決まってる。あの白河会長が後ろから手を回したんでしょ。にょいーんって」
 
 計兎くんが呆れながら腕を伸ばして抱きついてきた。
 
「白河会長が? まっさかあ」
 
「はーあ。美羽ちゃんたら鈍すぎ。あいつ、美羽ちゃんに恩を売る気マンマンじゃないか」
 
 そういう計兎くんは甘える気マンマンである。
 
 頭をぐりぐりと押しつけてくる仕草は可愛いし、しかも肩甲骨のくぼんだところをピンポイントで狙ってくるあたり、連日のお裁縫でずっしり重くなった肩コリに効く。
 くうう。かゆいところ、ならぬ凝ったところにまで効くミサキガミ……
 
 そうこうしているうちに、窓から見ていた集団が教室棟に入ってきた。
 一気に賑やかさが増して頭の中がぽんと白くなる。
 
 
 あれ? 私、商品は山ほど作ったけど、他に何もしてないよ?
 お会計は? 呼び込みは?
 
 
「ど、どど、どうしよ、お客さんだ」
 
「落ち着け。総大将が浮き足立つと総崩れだ」
 
 真神は教室の奥に出した椅子に私を座らせた。
 そこから一歩も動くなよと言わんばかりに適当な机を引っ張ってきて、そこに飲み物までどんと置いてくれる。
 確かに真神の言うことには一理あるのだけれど、もうコンセプトが天下分け目の大いくさになりつつある。
 真神は神様に仕えていたはずなのに、こういうところのワードチョイスがいちいち物騒だ。
 狼の血のなせる技……ってやつなのかな?
 
 
「適材適所だ。あとは俺たちに任せろ」
 
「はあ……」
 
 不安だ。
 いや、真神たちが不安というより、準備不足のまま迎えた自分のおマヌケさ加減が一番コワイ。
 たとえるなら、テスト勉強をすっぽかした夢を見ている時の怖さに似ている。
 
 あれは夢だけど、これは現実なんだもの!