廃部寸前な手芸部ですが、ユーレイ部員が助けてくれるようです!?

「……そういえば、真神は本当に何をするつもりなの? 私にくらい教えてくれてもいいんじゃない?」
 
「そうだな……まあ美羽はもう答えを知っているだろうが、あえて言うなら“付加価値”だ」
 
「付加価値?」
 
 何それ。全然見当もつかない。
 
 何かオマケ的なものをつけるってこと?
 
 真神はそれ以上答えるつもりはなさそうだ。
 
 
 はて。
 どういう意味だろう?
 
 
「あ、痛ッ」
 
 しまった。
 考え事しながら縫い物してたら指を刺しちゃった。
 とっさにぱくりとひとさし指を口に含む。
 じわりと鉄の匂いが鼻に抜ける。
 
「すまん」
「だいじょーぶ。こんなの舐めときゃなお……る、か、ら」
 
 くるりと後ろを向いて見上げた先には、至近距離の真神の真顔。
 
 あ、これは。
 その予感通り、くちびるが塞がれる。
 
「ん……っ」
 
 鉄の匂いが、一瞬で真神の匂いに塗り替えられる。
 
 どきどきするような甘さと、どこか危険な香り。
 そして頬のあたりをさらりとくすぐって去っていくのは真神の前髪だ。
 
 こそばゆいのに、嫌じゃない。
 もう一度触れてほしくなるのは、どうして……?
 
「血が……香るな」
 
「そう……なの? よく、わからない……」
 
「狼だから、俺はわかる」
 
 キスの合間に真神が囁く。
 鼻の頭がこすれるくらいの距離のまま、もう一度くちびるが塞がれる。
 ちゅ、ちゅ、とわざと音を立てて真神がくちびるを吸う。
 うう、恥ずかしい。
 
「こ、こらっ真神! ストップ!」
 
 近づいてくるほっぺたを挟んで押しとどめる。
 真剣白刃取りみたいな構図になってて、ちょっとおかしい。
 
 とにもかくにも、これ以上悪さができないように、真神のくちびるに手のひらを押し当ててぐいっと遠ざければようやく息がつけた。
 
「ま、まかみ。怪我したのは口の中じゃないよ」
 
「む。そうか。そうだったな」
 
 あ、このシチュエーション……
 初めて会った時もそうだった。キスしようとしてくる真神をこうして止めたんだった。
 私たちって進歩ないなあ……
 
「ひゃ」
 
 指の腹を柔らかく歯で押されて思考が止まる。
 かぷかぷと甘噛みしてくる真神を手のひらで止めようとすると、当然のように指まで舐められた。
 痛かったのは人差し指なのに、それ以外の指まで真神のくちびるが。
 
「……っ」
 
 ちゅ、ちゅ、と吸いつかれて頭の芯がふわふわする。
 もうとっくに血は止まっているのに真神は止まってくれない。
 
 どうしよう。こんな時の男の子ってどうしたらいいの?
 パニックになってきた頭の片隅で、計兎くんの大きなため息が聞こえた。
 
「もーう……美羽ちゃん困ってるじゃん」
 
 私よりはるかに耳がいいはずの真神に、声が届いていないはずがない。
 なのにこれっぽっちも止まる気配を見せない真神の手が、するりと指先から手のひらへ、そして手首へ。
 
 そして……白河会長からもらったバングルに、触れた。
 
「や、っ」
 
 バチッ!
 
 たとえるなら、静電気のような衝撃だった。
 真神が触れた瞬間、このバングルは、今、明らかに真神を拒絶した。
 
「……え?」
 
「…………なるほど、な」
 
「え、え? 真神、何かわかったの?」

 私はさっぱりわからないというのに、訳知り顔でバングルを見下ろす真神の瞳は何かを見透かしているようだ。

「……美羽は好かれやすいな、と思ってな」
 
「え……?」

 真神は今作ったばかりのポーチをひとつ、指先でつまむ。
 
「つまり、俺も負けていられないということだ」

 とくん。
 
 鼓動一回分の間、ポーチが淡い琥珀色の光に包まれる。
 目を見張っていると、呼吸のように光は消えた。