そして真神は、というと。
「で、アンタの仕事は何なワケ」
シュークリームをぱくつく合間に尋問する涼ちゃんはタイパの鬼だ。
この「で」という言葉を発するには計兎くんと鹿弥さんの仕事ぶりをチェックしており、なおかつ真神の手持ち無沙汰っぷりを把握している必要がある。
それをさらりとやってのけるマルチタスクっぷりは、やはり将来の名女優に光る才能なのかもしれない。
「言っただろう。美羽に関することすべてが俺の仕事。
進捗確認、適切なタイミングでの休憩、完成品を褒め、スランプになれば励まし、美羽のメンタルケアを一手に引き受ける。
そしてついでに計兎と鹿弥の仕事にも目を通す。その合間を縫って、お前のような者が美羽に関わるのを目こぼしする……
俺が一番多忙といっても差し支えないな」
「は?」
涼ちゃんのドスのきいた声色に、部屋の温度が3度下がった。
「……真神」
糸の始末を終えた糸切りばさみを置いてから真顔で振り向けば、やれやれといった様子で真神は咳払いをして「冗談だ」と付け加えた。
「俺には最後の仕上げがあるからな」
「仕上げ? アンタ、美羽の作品に手直し入れられるほど器用なの?」
まさかあ、と言いたげな涼ちゃんがこちらを見る。
私もよくそのあたりがわかっていないので、どっちつかずの返事しかできない。
「まあ見ていろ。晴れの舞台の輝かしさを知っているお前なら、美羽の作品が乗るべき場所を理解しているだろうからな」
「……ふーん。言ってること、3割くらいしかわかんないけど、美羽のためになることやってるんなら邪魔しないでいてあげる」
シュークリームを食べ終えた涼ちゃんは、ウェットティッシュで手を拭う。
そしてロールタイプの粘着シートをさっと作業机全体にかけてくれた。
「美は細部に宿る。糸くずひとつでクオリティに傷がつくこともあるからね」
「涼ちゃん……! ありがとう!」
「たいしたことない糸のほつれでも、客席からわかっちゃうものなのよね。じゃ、予鈴が鳴ったら教室に戻ってきなさいよー」
ひらりと手を振った涼ちゃんに何度もうなずいて見送る。
「……なるほど。些細なことも見逃さずに見せ方を研究するとは、彼女もなかなか慧眼の持ち主ですね」
「うーん盲点。キレイに撮るかじゃなくて、まず土台をキレイにしておくことかー。よっし、ちょっと本気出しちゃおうかな」
涼ちゃんの気遣いと審美眼に触発された計兎くんと鹿弥さんの目にめらりと炎が揺れる。
私の作品を大切に、そしてより良く届けてくれようとする彼らの思いに答えるべく、せっせと手を動かすことにした。
「で、アンタの仕事は何なワケ」
シュークリームをぱくつく合間に尋問する涼ちゃんはタイパの鬼だ。
この「で」という言葉を発するには計兎くんと鹿弥さんの仕事ぶりをチェックしており、なおかつ真神の手持ち無沙汰っぷりを把握している必要がある。
それをさらりとやってのけるマルチタスクっぷりは、やはり将来の名女優に光る才能なのかもしれない。
「言っただろう。美羽に関することすべてが俺の仕事。
進捗確認、適切なタイミングでの休憩、完成品を褒め、スランプになれば励まし、美羽のメンタルケアを一手に引き受ける。
そしてついでに計兎と鹿弥の仕事にも目を通す。その合間を縫って、お前のような者が美羽に関わるのを目こぼしする……
俺が一番多忙といっても差し支えないな」
「は?」
涼ちゃんのドスのきいた声色に、部屋の温度が3度下がった。
「……真神」
糸の始末を終えた糸切りばさみを置いてから真顔で振り向けば、やれやれといった様子で真神は咳払いをして「冗談だ」と付け加えた。
「俺には最後の仕上げがあるからな」
「仕上げ? アンタ、美羽の作品に手直し入れられるほど器用なの?」
まさかあ、と言いたげな涼ちゃんがこちらを見る。
私もよくそのあたりがわかっていないので、どっちつかずの返事しかできない。
「まあ見ていろ。晴れの舞台の輝かしさを知っているお前なら、美羽の作品が乗るべき場所を理解しているだろうからな」
「……ふーん。言ってること、3割くらいしかわかんないけど、美羽のためになることやってるんなら邪魔しないでいてあげる」
シュークリームを食べ終えた涼ちゃんは、ウェットティッシュで手を拭う。
そしてロールタイプの粘着シートをさっと作業机全体にかけてくれた。
「美は細部に宿る。糸くずひとつでクオリティに傷がつくこともあるからね」
「涼ちゃん……! ありがとう!」
「たいしたことない糸のほつれでも、客席からわかっちゃうものなのよね。じゃ、予鈴が鳴ったら教室に戻ってきなさいよー」
ひらりと手を振った涼ちゃんに何度もうなずいて見送る。
「……なるほど。些細なことも見逃さずに見せ方を研究するとは、彼女もなかなか慧眼の持ち主ですね」
「うーん盲点。キレイに撮るかじゃなくて、まず土台をキレイにしておくことかー。よっし、ちょっと本気出しちゃおうかな」
涼ちゃんの気遣いと審美眼に触発された計兎くんと鹿弥さんの目にめらりと炎が揺れる。
私の作品を大切に、そしてより良く届けてくれようとする彼らの思いに答えるべく、せっせと手を動かすことにした。


