「真神の気持ちは嬉しいけど、もっと大勢に訴えかけるものが欲しいの。今の案じゃ結局手芸部の内輪で盛り上がって終わりだもん」
 
「ったく……仕方ない。真面目に考えるか」
 
 ぐしゃりと髪をかきあげた真神の仕草はワイルドでかっこよかった。
 図に乗るから言わないけれど。
 
「ふむ……美羽さん、少しお伺いしたいのですが」
 
 眼鏡のレンズをカチャリと上げた鹿弥さん。
 何かアイディアが浮かんだのだろうか。
 
「美羽さんは作品を作る時、何を思い描いていますか? 完成した時の質の良さでしょうか。それとも自分のイメージに沿っているか、でしょうか」
 
「私が思い描いていること……?」
 
「ええ。目標と言ってもいい。そこからアピールポイントを考えてみようかと」
 
「私の、目標……」
 
 そう口に出すと、今までに作ってきたものの感触が手の中に蘇るようだった。
 
 ビーズのアクセサリー、あみぐるみ、刺繍、ちりめんの吊るし飾りにミサンガ。
 ぱっと思いつくだけでもこんなにある。
 
 うっかり針で指を刺したりなんて当たり前。
 編み目を読み違えて全部ほどく羽目になったり、ビーズを入れた箱をひっくり返したりして泣きたくなった時もあった。
 だけどそれでも作品を作り上げてきたのは、そう。
 
「誰かの笑顔……かな」
 
 もちろん、イメージ通りに作れたら嬉しい。
 でもそれより、プレゼントした時に相手が驚いた直後のあの笑顔。
 
 
 わあ! って心からでてきたあの歓声。
 あの反応が見たくて。喜んで欲しくて。
 
 
 だから、このミサンガだって、友達の推しカラーを選んで作った。
 真神たちにも、これだけじゃなくてもっと似合う色や好きな色で作ってあげたい。
 
 涼ちゃんが演劇部で使う小物作りを手伝った時も、これを身につけて舞台に立つ涼ちゃんの活躍するところを見たかったから。
 私の作品で、大好きな涼ちゃんを輝かせたかったからだ。
 
 そうだ。
 自分のためじゃない。誰かのため。
 
 だから、先生に宣戦布告したときから違和感があったんだ。
 あれは私のわがままを通したいがための条件であって、作られた作品のことを置き去りにしていた。
 
 だからずっと心の中でモヤモヤしていたんだ。