廃部寸前な手芸部ですが、ユーレイ部員が助けてくれるようです!?

「真神に譲ったつもりはないのですが……」
 
 すっと顔を上げた鹿弥さんが、私を見つめる。
 暖炉のぬくもりのような、ほのかに明るい茶色の瞳。
 そこで時折情熱的に炎がゆらめくのは、鹿弥さんの本質なのだろうか。
 
「鹿弥さん」
 
「美羽さん……」
 
 真神に取られていないほうの手を柔らかく握られる。
 
 あ。ど、どうしよう。これ、抵抗できない流れだ……!
 
 鹿弥さんは、私に見せつけるようにすっと手を持ち上げる。
 いや待てよ、これはもしかして、真神に見せつけているのかもしれない。
 
 鹿弥さんは恭しく頭を垂れると――唇を寄せた。
 指に――右手の薬指に、ぽっとぬくもりが灯る。
 
 わ、わわっ!
 
 触れるだけにしてはやけに長いキス。
 すると鹿弥さんの唇が、ちゅうと音を立てて指の薄い皮膚に吸いついた。
 
「ひゃっ」
 
 
 ひえええっ!
 な、なに、今の!?
 
 
 指が熱くて、恥ずかしくて、でも鹿弥さんから目が離せなくて。
 伏せていたまなざしがちらりとこちらを見る。
 
「……っ」
 
 あ、だめだ。このひと、優しいふりして、すごいことやってのけるんだ……!
 
 鹿弥さんが名残惜しむように唇を離す。
 慌てて引っこ抜いた手はうまく力が入らないままだ。
 
「……ああ。指先でも充分、加護があるようです」
 
 鹿弥さんが感嘆のため息を漏らす。
 
 真神と同じだ。
 もう透けていない、しっかりとした体に変わっていた。
 
「すごい……」
 
「すごいのはあなたですよ。美羽さん。惜しむらくは、唇にだけ効果が留まらないことですね」
 
 思わせぶりに唇に指を添えて微笑んでみせた鹿弥さんの言葉の内容をゆっくり咀嚼する。
 それって、あわよくば唇で試したかったということで……つまり、それは私とキ、キスしたかったと……

 うわ、わわわ。
 
「ボクはキスしたいよーっ!!」
 
「ひええっ!?」
 
 私の心を読んだかのように、突撃してきたのは計兎くん。
 むぎゅうと抱きついてきて頭をぐりぐり押し付けられる。
 
 計兎くん、行動がウサギのままじゃない!?
 
 まあ、おかげで鹿弥さんは離れてくれたけれども。