「……美羽」
 
「な、なによ」
 
「お前――いったい」
 
「私? なんで私なの。私は何も……って、まさか」
 
 そっと唇に指を触れさせる。
 まだ真神に塞がれたときの感覚が残って、じんと痺れている気がする。
 
 あのキスが。
 あれがキッカケで、真神の身体が実体になったのだとしたら。
 
「えっと……」
 
「美羽ちゃんっ」
 
「美羽さん!」
 
「うわぁ!」
 
 考えがまとまらないうちに計兎くんと鹿弥さんががばりと身を寄せてきた。
 待って。近い! 近いってば!
 
「うら若きお嬢さんにこのようなことをお願いするのは甚だ破廉恥であるという自覚はあります。あとでひっぱたいてもらっても構いません。ですがどうかこの通り……っ」
 
「お願いお願いお願い美羽ちゃん、ボクたちにも美羽ちゃん様のご加護ぷりーずぅぅぅ!!」
 
「ひえ、ええええっ!!?」
 
 今までにない圧に押し潰されそうで必死にのけぞるも、背中は真神に固定されているためすでに限界だ。
 
 
 なんだこれ。私、サンドイッチの具?
 
 
 がばりと土下座してきた鹿弥さんのつむじを見つめる。
 
 
 ……ものは試し、かもしれない。
 
 
 ここで彼ら3人がユーレイから人間になれるなら、少なくともいったん手芸部は存続させられる。
 自分の唇と目的を天秤にかける日がくるなんて思わなかった。
 
 つまり私の唇に、それだけの価値があるってことで。
 ここは大いなる目的のために、夢見ていたロマンチックなシチュエーションは捨てるべきかもしれない。
 
「……あ、あの、鹿弥さん」
 
「だめだ」
 
 彼に伸ばした手を絡め取られる。
 そうしてきたのはもちろん――真神だ。
 
「な、なによっ」
 
「唇は、だめだ。そう簡単に許すものでもないだろう」
 
「……え」
 
 さっき、ひとのファーストキスを盛大に奪っていったヤツのセリフとは思えない。
 でも、あれは私の咳を止めるためと言うなら一種の治療行為であったわけで……もしかしたら、ノーカウントにしてくれる真神なりの優しさってやつ?
 
「美羽の唇は俺だけに。だろう?」
 
 前言撤回。こいつ、独占欲の塊だ!