「それはまた……えっらい啖呵切ったねえ」
「どうしよー! なんか言われたい放題なのがカチンときたからつい言い返しちゃったんだけど……無謀、だよね?」
「わかってるじゃん」
「うっうっ、いつもながらクールビューティ悪役令嬢の演技が上手いね涼ちゃん様はっ」
「悪役令嬢はよーけーいっ」
ぽこん。
丸めた教科書で頭を軽くたたかれ、私はあえなく机に撃沈した。
ところ変わって場所は教室。
何とか間に合った昼休みの賑やかさに紛れて厄介な相談事を持ち込めば、手芸部副部長にして演劇部期待のスター、魅上涼ちゃんは一応聞く耳は持ってくれた。
「まあ、あたしも手芸部員ではあるからね。他人事にはしないわよ」
「よっ、姐さん! 義理人情に厚いね」
「美羽……あんたさ、あたしの配役をなんだと思ってるの」
「だって涼ちゃんときたら演劇部入部初日の洗礼、アドリブセッションで先輩たちの度肝を抜いた未来の大女優じゃない。うちの学校からレッドカーペットが出たら卒アルはプレミア間違いなし」
「はいはい。それで? 美羽はあたしら3年間の思い出が詰まったアルバムをほいほいと売り渡せるような薄情者なのかな?」
挑発するようにつんとおでこをつつかれて、勢いよく顔を上げた。
「バカ言わないで。涼ちゃんと隣同士になってる集合写真なんて、何があってもマスコミから死守してみせますとも」
「よーしよく言った。それならあたしたちの友情に免じて作戦会議するとしましょうか」
涼ちゃんは紙パックのアイスティーを飲みきると、ていねいに畳んでからゴミ袋代わりのコンビニ袋に入れて口を縛る。
それと入れ替わりに、私はリュックからおにぎりが入った保冷ポーチを取り出した。
「これからお昼?」
「だって、お昼休みに入るなり大橋先生に呼び出されたんだもの」
「うえー。大橋ったら自分は5限休みだからってさあ。こっちはフルで授業あるんだから、ご飯の時間くらい邪魔しないで欲しい」
「うんうん」
ラップを開いておにぎりをぱくつく。
保冷剤が効きすぎて冷たいけれど、電子レンジのある食堂まで行っていたら昼休みが終わってしまうのでやむなしだ。
「……それ、手作り、だよね」
「? うん」
「だよねえ……」
そこで涼ちゃんは言葉を切って大きくため息をついた。
椅子に横座りになって足を組む姿が様になっていて、女優じゃなければモデルになれそう。
「美羽はお裁縫の腕はいいのに、ねえ」
「…………言いたいことはわかった」
涼ちゃんはあえて「腕は」のところを強調して言い放つ。
これが台本ならアクセント記号がふられていることだろう。
手の中のおむすびを見る。そこにあるのは綺麗な三角型でも、風情漂う俵型でもない。
強いて言うなら、とりあえず手のひらから暴れ出さないように押さえつけた形のおむすびだ。
しかも具は今にも脱走を試みようとするヒーローのように、ごはんからはみ出ている。
私はあまり、料理が上手じゃない、みたい。
「――っ、いいでしょ別に! 美味しいんだし」
「アクセサリーとか、すっごく綺麗に作れるのにね。神様って残酷。だから家庭科の成績がいつも微妙なのねえ」
「そうそう、被服メインなら5なのに調理になると3に落ちそうで……ってそれは今関係ないでしょ!」
ついつられてノリツッコミしてしまった。
いけないいけない。
涼ちゃんのカリスマは私まで舞台に上がらせてしまいそうだ。
大女優と場末のお笑いタレント、実は中学時代からの大親友!? なんてネットニュースになったりして。
ああでも、涼ちゃんとニュースになるなら専属デザイナーの方がいいなあ。
「みーう? ゆっくり食べてたら昼休み終わるよ」
「はっ!」
慌てておにぎりの残りをもぐもぐと咀嚼してマイボトルのお茶で流し込む。
タイムイズマネー。
先人の残した格言はかくも偉大だ。
「どうしよー! なんか言われたい放題なのがカチンときたからつい言い返しちゃったんだけど……無謀、だよね?」
「わかってるじゃん」
「うっうっ、いつもながらクールビューティ悪役令嬢の演技が上手いね涼ちゃん様はっ」
「悪役令嬢はよーけーいっ」
ぽこん。
丸めた教科書で頭を軽くたたかれ、私はあえなく机に撃沈した。
ところ変わって場所は教室。
何とか間に合った昼休みの賑やかさに紛れて厄介な相談事を持ち込めば、手芸部副部長にして演劇部期待のスター、魅上涼ちゃんは一応聞く耳は持ってくれた。
「まあ、あたしも手芸部員ではあるからね。他人事にはしないわよ」
「よっ、姐さん! 義理人情に厚いね」
「美羽……あんたさ、あたしの配役をなんだと思ってるの」
「だって涼ちゃんときたら演劇部入部初日の洗礼、アドリブセッションで先輩たちの度肝を抜いた未来の大女優じゃない。うちの学校からレッドカーペットが出たら卒アルはプレミア間違いなし」
「はいはい。それで? 美羽はあたしら3年間の思い出が詰まったアルバムをほいほいと売り渡せるような薄情者なのかな?」
挑発するようにつんとおでこをつつかれて、勢いよく顔を上げた。
「バカ言わないで。涼ちゃんと隣同士になってる集合写真なんて、何があってもマスコミから死守してみせますとも」
「よーしよく言った。それならあたしたちの友情に免じて作戦会議するとしましょうか」
涼ちゃんは紙パックのアイスティーを飲みきると、ていねいに畳んでからゴミ袋代わりのコンビニ袋に入れて口を縛る。
それと入れ替わりに、私はリュックからおにぎりが入った保冷ポーチを取り出した。
「これからお昼?」
「だって、お昼休みに入るなり大橋先生に呼び出されたんだもの」
「うえー。大橋ったら自分は5限休みだからってさあ。こっちはフルで授業あるんだから、ご飯の時間くらい邪魔しないで欲しい」
「うんうん」
ラップを開いておにぎりをぱくつく。
保冷剤が効きすぎて冷たいけれど、電子レンジのある食堂まで行っていたら昼休みが終わってしまうのでやむなしだ。
「……それ、手作り、だよね」
「? うん」
「だよねえ……」
そこで涼ちゃんは言葉を切って大きくため息をついた。
椅子に横座りになって足を組む姿が様になっていて、女優じゃなければモデルになれそう。
「美羽はお裁縫の腕はいいのに、ねえ」
「…………言いたいことはわかった」
涼ちゃんはあえて「腕は」のところを強調して言い放つ。
これが台本ならアクセント記号がふられていることだろう。
手の中のおむすびを見る。そこにあるのは綺麗な三角型でも、風情漂う俵型でもない。
強いて言うなら、とりあえず手のひらから暴れ出さないように押さえつけた形のおむすびだ。
しかも具は今にも脱走を試みようとするヒーローのように、ごはんからはみ出ている。
私はあまり、料理が上手じゃない、みたい。
「――っ、いいでしょ別に! 美味しいんだし」
「アクセサリーとか、すっごく綺麗に作れるのにね。神様って残酷。だから家庭科の成績がいつも微妙なのねえ」
「そうそう、被服メインなら5なのに調理になると3に落ちそうで……ってそれは今関係ないでしょ!」
ついつられてノリツッコミしてしまった。
いけないいけない。
涼ちゃんのカリスマは私まで舞台に上がらせてしまいそうだ。
大女優と場末のお笑いタレント、実は中学時代からの大親友!? なんてネットニュースになったりして。
ああでも、涼ちゃんとニュースになるなら専属デザイナーの方がいいなあ。
「みーう? ゆっくり食べてたら昼休み終わるよ」
「はっ!」
慌てておにぎりの残りをもぐもぐと咀嚼してマイボトルのお茶で流し込む。
タイムイズマネー。
先人の残した格言はかくも偉大だ。


