廃部寸前な手芸部ですが、ユーレイ部員が助けてくれるようです!?

 すっかり泣き止むと、初対面のひとたちの前で泣いていたのが急に恥ずかしくなった。
 
「あ、あの、ご迷惑おかけしまして、そのなんといいますか……」
 
 そそくさとこの場から離れたかったけれど、3人からがっちりガードされているせいで立ち上がることすらできやしない。
 
「ふふ、落ち着きましたか?」
 
 ゆっくりと絡まった髪をほどいてくれていた鹿弥さんがそっと体を離してくれた。
 それをきっかけに計兎くんも顔を上げる。膝の辺りが軽くなった。
 
 しかし、真神は微動だにしなかった。
 
「……あー、あの、真神?」
 
「ん?」
 
「は、離してほしいかな」
 
「嫌だ」
 
 
 嫌!?
 なぜに!?
 
 
「あ、あのさ、話があるんでしょ? ミサキガミがどうとか、封じられていたとか……私が話の腰を折っちゃったからグダグダになっちゃったけど。だから続き、聞くから」
 
「ああ……その話か。うん、話ならこのままでもできるな」
 
 
 いやいやいや、確かにそうだけれど!
 でも、話をするにふさわしい体勢ってのがあるでしょう!
 
 
 ぐぎぎ、と真神を押し返そうと腕を突っ張ったけれど、平然とした顔でものすごい腕力だった。
 
 ぴくりともしない。
 困り果てて鹿弥さんを見ると、うーんと腕組みをしている。
 それから一度頷いて、真神を見た。
 
「真神」
 
 
 予備動作なし、右ストレート。
 
 
 絶対当たらない位置にいた私の髪が2、3本風圧で浮いた。
 それをひょいと首の動きだけで交わした真神は平然としている。
 
「鹿弥、美羽に当たるだろう」
 
「真神はそんなヘマ、させないでしょう? ――ああ、美羽さん」
 
「っは、はい!?」
 
「無理ですね。剥がれません。諦めてください」
 
「えええ……」
 
 
 なんなの今の。鹿弥さん、突然の武闘派にチェンジ?
 
 
「鹿弥さん、温厚な方だと思ってたのに……」
 
「はは、すみません。普段はそうありたいと思っていますので、ご安心を」
 
 普段は温厚です。じゃなくて、温厚でありたい、か。
 
 ちょっと待って、それってただの願望じゃない?
 
「鹿弥ったら普段はにこにこ笑顔だけど、必殺技は頭突きだからねー。今回は手だったからまだまだ大丈夫だよ。美羽ちゃん、安心してね」
 
 
 安心できる要素はどこに!?
 
 
 っていうか頭突きって……あ、そっか。鹿だから、角で突き合うとかあるのか。
 奈良公園でのんびり鹿せんべいをもしゃもしゃ食べてる鹿しか浮かばなかった……
 
 そうだよね、鹿せんべいがなくなると突撃してくることもあるもんね。
 鹿って温厚なだけじゃないのか。
 
 ……ひええ!!
 
 ぶるりと震えて腕をさすっていると、真神の手のひらが上から覆ってくる。
 
「寒いのか」
 
「えっと、そういう意味じゃなくて……」
 
 今の流れから察して! と心の中で突っ込んだけれど、残念ながら伝わらなかった。
 
 日常茶飯事過ぎて気にもとめないってこと?
 
「これならどうだ」
 
 もぞりと動いた真神が、私の横から後ろへ回り込む。
 背中から囲い込むように腕を回され、お腹の前で手をゆるく組んだ。
 まるで真神が座椅子になったみたい。
 確かにこの体勢だと脇腹が引き攣らなくていいかもしれないけれど、がっちり逃げられなくされているのに変わりはない。
 
「……」
 
 黙り込んだ私に、計兎くんが首を横に振った。
 
「美羽ちゃん、諦めな」
 
「……うん」
 
「うん、と言ったな。つまり居心地がいいんだな。それなら良かった」
 
「そこに反応するのね!?」
 
 どうやらこの狼、都合のいいところだけ切り取って解釈するらしい。
 気をつけよう……