廃部寸前な手芸部ですが、ユーレイ部員が助けてくれるようです!?

 ……あ、やばい。
 鼻の奥がツンとする。

「……っ」

 ぽたり。
 握りしめていたタオルの上に、涙が一滴、吸い込まれていった。
 
「み、美羽!? どうした!」
 
「どこか痛むのですか、治しきれていないところがありましたか!?」
 
「うわあああ痛いの痛いのずぇんぶマカミに飛んでけー!!」
 
 即座に3人が腰を浮かす。
 男子3人がみっともないほどに慌てふためいて押し寄せてきた。
 
 勢いと声の大きさにちょっと引く。
 あ、失礼。
 でもついでに涙も引っ込んだ。
 
「ち、違うの。どこか痛いとかじゃなくて……その、私も、似たような思いをしてきたから、なんか、わかるな、って……ああ、別に私は数百年ユーレイだったわけじゃないから、比べるには及ばないか。あはは」
 
 喋りながら、簡単にわかるだなんておこがましいなと思った。
 だから、慌てて言い訳がましく言葉を添えて手をひらひら左右に振った。
 
 ちっぽけな人間の3年にも満たない悩みと、神様のミサキガミ(いまいちこの意味がよくわからない)が数百年耐えてきた苦しみを同列に語るなんてできやしない。
 
 私だったら他人から簡単に苦しみを「わかる」なんて言われたら「本当に?」って疑ってかかるもの。
 彼らだってそれは同じなはずで……
 
「……ひとりで、辛い思いをしてきたんだろう」
 
「……え」
 
 誤魔化すためにわざとふざけて遊ばせていた指を、真神の手がそっと包む。
 骨ばっていて、厚い手のひらだ。
 
「人間だろうがそうじゃなかろうが、感じるものは同じだ。また比べることにも意味は無い」
 
「そうです。美羽さんが辛いと感じたなら、それは美羽さんだけの感情。俺たちと比べて自分の気持ちを押し殺さなくてもいいんです」
 
「そうそう、1秒にも満たない刹那の痛みだって、絶え間なく続けば数えるのも嫌になるくらいの那由多にも匹敵する激痛になって苛んでくる。否定したからって辛さがなくなるわけじゃないしね。それなら、ちゃんとこうしてー」
 
 膝立ちになって布団に乗ってきた計兎くんが私の頭に手を伸ばす。
 いいこいいこ、と小さい子にするように頭を撫でられた。
 
「辛くても頑張ったね、って自分を褒めてあげなきゃ」
 
「……!」

 
 そっか。
 そうしても、いいんだ。
 
 
 髪から伝わってきた計兎くんの温もりが、優しさが、じわりと涙腺を刺激する。
 
「……っ」
 
 浮かんできた涙を彼らに見せるのが恥ずかしくて手の甲で目を擦ろうとすると、鹿弥さんに止められた。
 握っていたタオルをそっと目に押し当てられる。
 
「擦っては赤くなってしまいますから……ね?」
 
 そう言って微笑んだ鹿弥さんの声は、海みたいに深くて優しい響きだ。
 
「美羽」
 
 ぐい、と体を真神の方へ抱き寄せられる。
 肩口に頭を預けるように、しっかりと抱きしめられた。
 
「わ、な、なにっ」
 
「ひとりで泣くな。ひとりで抱え込むな。ひとりで耐えるな」
 
 低い声でまくし立てられる。
 触れ合っているところから声の振動が伝わって、耳で聞いているというより体で感じているみたいだ。
 
「……なにそれ、命令?」
 
「……願いだ」
 
 
 願い。
 
 
「真神だけじゃなくて、俺たちの願いでもありますね」
 
「そうだねー。せっかくこうして会えたんだからさ。分け合わせてよ」
 
 立て膝からずるずると腹ばいになった計兎くんはすっかり布団にうつぶせになると、私の腰に腕を回して抱きついてくる。
 鹿弥さんはタオルで涙を拭ってくれたり、涙のせいでこめかみあたりに張りついた髪をひとすじずつ、丁寧に整えてくれている。
 真神の腕は、私がひとりじゃないと言わんばかりにしっかりと肩に回されていて、身動きもとれないくらいだ。
 
 
 初めて会ったひと。それも男の子たちなのに。
 
 
 どうしてこんなに居心地がいいんだろう?
 どうしてこんなに、彼らは私の事を思いやってくれるんだろう?
 
 よくわからないことだらけだけれど……これだけは、言える。
 
 今、この時、私はひとりじゃなかった。