夜を繋いで君と行く

「……律が独りにしたんじゃなくて、私が『独り』を選んだの。……でも、辛かったなぁ。ずるいよね。自分で律の優しさを受け取らないって決めたのに、もうあの距離に居てもらうことはできなくて、名前も呼んでもらえないんだって思って落ち込んで。家に帰ると、前よりもずっと誰もいないんだなって気持ちになった。おかしいよね、一緒に住んでたわけでも付き合おうって約束をしたわけでもなんでもなくて、ただ手を繋いで歩いた日々が時々あって、一緒に何度かご飯を食べただけだったのにね。それなのに、『もういない』が……寂しかった。」

 忘れたことなどないけれど、思い出すだけで苦しかった。手放すも何も、そもそも怜花のものではなかった『二階堂律』という人が、声優という本来交わることのないカテゴリーに戻っていっただけだった。それに息苦しさと涙が止まらない悲しさが付随していいはずがなかった。そんな風に何度も自分の心を責めた。隣にいてはならない、もうこれ以上、と何度も頭の中で警報が鳴っていたのにそれを無視し、ただ何となく心地よい空間と距離を手放せなくて傍にいてしまった。ベッドで泣きながら、何度も思い出していた。『怜花ちゃん』と呼んだ声も、『可愛いね』と言った時の表情も、そっと測りながら触れてくれた手の温度も。

「うん。寂しかった。……たまらなく、寂しかった。」

 さらりと髪が揺れ、律の額が怜花のものに重なった。近付いた距離に、怜花は静かに目を閉じた。静かな室内にはただ呼吸の音が微かに聞こえるだけだ。

「……似たようなこと、思ってた。怜花とのLINE見返して、こんなこと話したなとか話せなかったなとか思って。っていうか、理由が全然わからなくて。何かしたかなって思えるほどその前に連絡できてたわけじゃなくて、普通に仕事が尋常じゃなく忙しかったから会うどころか連絡も全然できてなかったし。」
「……そう、だよね。律からしたら意味わかんないだろうなとも思った。でも、声優の熱愛報道っていつも適当に流してたし、興味なかったけど、律もそういう対象だったってことも思い出して。……私は、邪魔になる、律の人生をめちゃくちゃにしちゃうって、思っちゃったんだよ。」
「もーさぁー……あいつの熱愛報道のせいで俺はせっかくライブ終わったっていうのに、怜花と音信不通になるっていうさー……終わったから怜花とお泊まり会やろうって思ってたし、そこで話さなきゃって思ってた。」
「話す?」

 律はそのまま、怜花の額にそっと口付けた。怜花が目を開けると、律は少し切なさの滲む笑顔を浮かべていた。

「『怜花ちゃんにとって嫌な話をしてしまうけど、ずっと考えてたことを話してもいい?』ってね。」
「……その前提が優しいんだよね、律は。だって律は律の思ったことをいつだって話してよくて、我慢する必要も、私に遠慮しなきゃいけない理由もないんだから。」
「理由はあるよ。遠慮とかじゃなくて、本当に嫌われたくなかった。だから、嫌なことをしたくなくて、だから置けるクッションはできるだけ置いて、痛みも悲しみも辛さも与えたくなかったんだよ。」