夜を繋いで君と行く

「そうやって少しずつ仕事が増えて、人間らしさが身について、イケメン声優だと持て囃されて、そのイメージが先行して近寄ってくる人も増えて。付き合った人はいたけど、長く続いたことはなくて、仕事があってそれが楽しいと思えるならそれが手に入っただけでも充分だって思ってた。それも全然、嘘じゃないよ。だけど……。」

 律は怜花をまっすぐに見据えて、怜花の頬にそっと手を添えた。

「俺の前に、怜花は現れた。最初は三澄のファンの友人として。その友人の恋心を押す人として。次に会って向けられたのはまるで男を信用していない目で、男嫌いとまで言ってたね。でも、それが心地よかった。今もだけど俺にしてほしいことなんかほぼなくて、全部自分で解決できてしまう。強くてかっこよくて、面白くて、話せば楽しくて。可愛いことを言うしやるくせに、自分のことが少しも好きじゃなくて。そんな怜花に俺はただ近付きたくて、こっちをずっと見ていてほしくなった。」
「そんなこと、思ってたの……?」
「うん。ずっと色々考えてた。駆け引きしたかったわけじゃないよ。ただ、きっと同じように色々考えてしまうタイプなんだろうなってことはわかっていたから、どうしたらいいんだろうって。今までの人はみんな、俺にしてほしいことばかりがあったから。かっこいい服を着て、お洒落なデートをしてほしいとか、高級な場所で食事がしたいとかね。お金にゆとりが出るくらい稼ぐようになったらますますそうだった。そういうわかりやすい、解決しやすいものだったから提供できた。考える必要もなかったから。でも、怜花は全部好きじゃないじゃん、そういうの。」
「そう、……だね、苦手。」
「でしょ?俺も別にそういう場所に連れていくのが嫌とかじゃないけど、それがしたいわけでもなかった。それに怜花が苦手なことを押し付けたいわけじゃなかったから、悩んだよ色々と。だから、お泊まり会しようって言った時に怜花が飲んでくれたのに、内心驚いてた。」
「だ、だって私は全然、してもらってたことで返せるものがなかったし……。」

 しどろもどろになりながらそう答えると、律は一層優しく微笑んだ。

「いやいや、怜花は断ってよかったんだよ最初から。だって怜花と仲良くしたかったのは俺だったんだから。怜花はそれに応えてるうちに、この人そこまで悪い人じゃないかもって思ってくれたわけでしょ?」
「……最初から悪い人とか、思ってたわけじゃないよ。」
「あ、そうなの?そこまで印象は悪くなかった?」
「悪くないっていうか、厳密にちゃんとこの人は線を引く人なんだなって。不可侵の領域がちゃんと出されてるって思ったから、そのままの距離で居られるのかもしれないって思ったの。律が先に何でもしてくれちゃうから、その、社内の人に絡まれてたの見て彼氏ですって言って彼氏のフリしたりとか……。」
「あれはもう、考えるよりも先に怜花ちゃんだ!男いる!彼氏ではなさそうだな……困ってる!で動いた感じ。」

 出会って間もない二人を思い出す。思えばあの頃、どんなことを考えていたのか一つずつ確認したことはなかった。