夜を繋いで君と行く

「笹塚さんの空いている時間はほぼ指導を受けて、そうしてる間に少しずつ雑談もできるようになって、で、聞いたんだよね。なんで第一声がキースの声だったんですかって。」
「それで?」
「君の出会いの声で出会うべきだと思ったんだってさ。かっこいいんだよねぇ、昔からというか出会った時から今までずっと。言い回しもかっこいいのに声もかっこいいじゃん?強すぎ~ってなってさぁ。それに多分父親とそんなに年齢変わらなかったと思うけど、怒鳴ったりとか理不尽なことを言ったりとかも一切ないんだよ。他人だから、雇用主と雇用される側だからという社会的な側面での配慮もあるとは思うけど、それ以前に人として、こういう大人もいるんだなっていい意味で俺の中の『大人像』は更新された。」
「……そっか。よかった。」

 怜花がそう呟いた。律は止めてしまった手を再び動かして、怜花の髪をさらりと撫でた。

「いやまぁここからはさぁ、笹塚さんの希望に応えられずにくすぶる5年くらいが続くわけ。高校生Aとかさ、通行人とか、ちょっとした犯人とかでの仕事はあったけど、単発だし生きていく分には全然足りない。バイトが主な稼ぎで片手間に声優の仕事に足を突っ込むみたいなそういう時期が続いて、それでも笹塚さんは俺を責めたり叱ったりはしなかったんだよね。あ、もちろん変なとことかの指導はあったけどさ。何で受からないんだとか、俺の顔に泥を塗るなとかは言わなかった。それがまぁ苦しくてさ。結果を出したいのに、笹塚さんのおかげで食うに困らなくなりましたって早く言いたいのに、ぜーんぜんだめ。やっぱもっと若い頃から志さないと無理な世界なのかもしれない、俺は遅かったのかもしれない、次は何にしたらいいんだろうってことを考えてた時に受けたのが、五十嵐監督の『死を視る少女と黒の騎士』だったんだよね。」
「み、観てる私!それ観た!」
「あ、そうなの?嬉しい。」
「そ、そっか。当時気にしたことなかったけど、アルフレッドが律?」
「うん。そう。大抜擢だった。何せヒロインの相手役だったから。」
「五十嵐監督とはそこからの付き合いなんだね。」
「うん。五十嵐監督はご自分で声優を決めるタイプだけど、他のスタッフが俺じゃない人を推す中で、五十嵐監督が譲らなかったんだって。この声だって。多少の粗削りさには目を瞑ってもらったというか……まぁ、その後は大変だったわけだけど、でもそこで俺の声優生命の首の皮一枚繋がった。」