「通知の封筒が来て、そこに合格も不合格も書いてなくてただ、事務所に来るようにと。一度日程を合わせるために事前に連絡が欲しいということが書いてあって、とりあえずバイトがない日を伝えて日程が決まって、スーツとかは持ってなかったから、オーディションに行った時と同じ服で行ったら通されたのは社長室でさぁ。といっても普通の部屋と全然変わらない、シンプルな部屋なんだけどね。で、笹塚さん本人にそこで初めて会った。」
「初めて?オーディションに笹塚さんはいらっしゃらなかったってこと?」
「ううん。いたんだけど、人数も多かったしで俺らはブースに入ってただ言われた通りのセリフを言ったりとか、歌ったりとかさせられただけだったんだよね。だから、指示を出している人も実際に俺たちを見ていた人のこともこっちからは視認できなかったんだ。もしかしたらそれは一次オーディションで次は二次とかって段取りだったのかもしれないんだけど。でも俺は別に合格でも不合格でも何でもなかったから、そこで呼び出されて、ご対面~って感じ。」
「……き、緊張する。」
怜花が自分の手をきゅっと固く握ると、律はふはっと軽く吹き出した。
「そうだよね。俺は事の顛末を知ってるからこんな感じで話しちゃってるけど、怜花は緊張するか。」
「……ずっと緊張してるよ。どのタイミングで律は幸せになるかなって……。」
「んーそうだなぁ、幸せって感覚はここ1年内くらいでようやくだから、『幸せ』をゴールにするとまだまだになっちゃうよ、この話は。」
「1年内?」
「なーにきょとんとした顔してんの?怜花でしょ、俺に幸せを持ってきてくれたのは。」
ほっぺをむにっと軽く摘ままれる。ゆっくりと理解が追い付いて、怜花の頬はみるみるうちに赤く染まった。
「……ご、ごめん、脱線させた。」
「可愛いリアクションしかしないんだから、ほんと。じゃあ話戻すけど、そこで笹塚さんと俺は初対面を果たしたというか、俺は初めてそこで本物を見たわけよ。見た目は普通に年相応の、あの頃は60をちょっと過ぎてたかなぁ、そのくらいだと思うけど、60代と言われれば若いなって感じの見た目で。でも出てきた声は20代の青年……っていうか、俺が観た『ハルアトスの姫君』の『キース』の声が第一声だったんだよ。『はじめまして、二階堂律くん』ってさぁ、キースの声がそう言ったんだよね。あれは忘れられない。衝撃的だよ。」
「そりゃそうだよ……私だって時々、律の声にあ!ってなるし。それが憧れの人なら尚更。」
律は深く一度頷いた。昨日のことのように思い出せる、あの日の記憶。あの声を聞いた時の鼓動の速さも、きっと忘れられないだろう。
「『君の熱意を僕は買いたい』って言われたんだよね。つまり、技能はだめだめだけど、気持ちは伝わったと。で、笹塚さんの事務所の研修生として俺は事務所に所属することになって、笹塚さんから直接指導を受けてというか、多分最初の新人だったんじゃないかな俺が。笹塚さんが一から鍛える新人って意味で。今でこそかなり育成に力入れて指導者の側面がかなり強い人だけど、10年くらい前は普通に現役バリバリ仕事ひっきりなしの売れっ子だからね、笹塚さんは。」
「いっぱい出演してらっしゃるもんね。私も色々観てるし。」
「うん。憧れの人が、いきなり先生になったんだ、あの日から。」
「初めて?オーディションに笹塚さんはいらっしゃらなかったってこと?」
「ううん。いたんだけど、人数も多かったしで俺らはブースに入ってただ言われた通りのセリフを言ったりとか、歌ったりとかさせられただけだったんだよね。だから、指示を出している人も実際に俺たちを見ていた人のこともこっちからは視認できなかったんだ。もしかしたらそれは一次オーディションで次は二次とかって段取りだったのかもしれないんだけど。でも俺は別に合格でも不合格でも何でもなかったから、そこで呼び出されて、ご対面~って感じ。」
「……き、緊張する。」
怜花が自分の手をきゅっと固く握ると、律はふはっと軽く吹き出した。
「そうだよね。俺は事の顛末を知ってるからこんな感じで話しちゃってるけど、怜花は緊張するか。」
「……ずっと緊張してるよ。どのタイミングで律は幸せになるかなって……。」
「んーそうだなぁ、幸せって感覚はここ1年内くらいでようやくだから、『幸せ』をゴールにするとまだまだになっちゃうよ、この話は。」
「1年内?」
「なーにきょとんとした顔してんの?怜花でしょ、俺に幸せを持ってきてくれたのは。」
ほっぺをむにっと軽く摘ままれる。ゆっくりと理解が追い付いて、怜花の頬はみるみるうちに赤く染まった。
「……ご、ごめん、脱線させた。」
「可愛いリアクションしかしないんだから、ほんと。じゃあ話戻すけど、そこで笹塚さんと俺は初対面を果たしたというか、俺は初めてそこで本物を見たわけよ。見た目は普通に年相応の、あの頃は60をちょっと過ぎてたかなぁ、そのくらいだと思うけど、60代と言われれば若いなって感じの見た目で。でも出てきた声は20代の青年……っていうか、俺が観た『ハルアトスの姫君』の『キース』の声が第一声だったんだよ。『はじめまして、二階堂律くん』ってさぁ、キースの声がそう言ったんだよね。あれは忘れられない。衝撃的だよ。」
「そりゃそうだよ……私だって時々、律の声にあ!ってなるし。それが憧れの人なら尚更。」
律は深く一度頷いた。昨日のことのように思い出せる、あの日の記憶。あの声を聞いた時の鼓動の速さも、きっと忘れられないだろう。
「『君の熱意を僕は買いたい』って言われたんだよね。つまり、技能はだめだめだけど、気持ちは伝わったと。で、笹塚さんの事務所の研修生として俺は事務所に所属することになって、笹塚さんから直接指導を受けてというか、多分最初の新人だったんじゃないかな俺が。笹塚さんが一から鍛える新人って意味で。今でこそかなり育成に力入れて指導者の側面がかなり強い人だけど、10年くらい前は普通に現役バリバリ仕事ひっきりなしの売れっ子だからね、笹塚さんは。」
「いっぱい出演してらっしゃるもんね。私も色々観てるし。」
「うん。憧れの人が、いきなり先生になったんだ、あの日から。」



