「バイトして1年くらい経った頃かなぁ。たまたま、バイト先の年近い友達みたいな存在ができて、本当に偶然、映画に誘われて。今までアニメの映画って映画館で観たことがなかったなと思って、何も考えずに観に行って笹塚さんの声に出会った。」
「何の映画だったの?」
「『ハルアトスの姫君』っていう、主人公は女の子だったんだけど、そのヒーローが笹塚さんだったんだよね。3部作で、あの日観たのは1でさ。めちゃくちゃ影があるのにそれは表に出さなくて、ヒーローなのにあまりヒーロー然とはしていなくて、ファンタジーなのに、魔法も剣も出てくるのに、その声もその人も本当にそこにいるみたいな普通さがあって驚いたんだよね。で、あんまりない金を叩いて3部作全部観に行って、気が付けば笹塚さんの出てる作品は片っ端からレンタルして観て、聞いた。昔は笹塚さんのラジオもあったから、それも聞いてたな。」
「すごいのめりこみ……。」
怜花がそう呟くと、律は少し恥ずかしそうに笑った。
「ね。何の目標もなくてただ死なないためにバイトで命を繋いでただけの俺がさ、初めてハマったのがアニメであり、キャラクターに合わせて変わる声だったんだよね。で、丁度その時に笹塚さんは事務所を立ち上げていて、その事務所で新人発掘オーディションみたいなのをやっていて、学歴不問って書いてたから応募したんだ。……まぁ学歴は不問だったけど、普通に養成所とか行ってた人とか、そういう人ばっかりが実際は来たわけだけど。履歴書も必要で事前に書いていって、でも当日は当日で、すごく色々書かなきゃいけない紙があって。中でも覚えてるのは……。」
律は少しだけ上を見た。律があの日のことを忘れたことは一度だってなかった。そのくらい、運命が変わるような出来事だったのだから。
「声の演技を見る前に、多分あれはあの事務所独自のものなんだろうけど、なぜここに来たのかとか、声優とは何だと思うかとかそういう……なんていうか、思考を見られるみたいな質問用紙があったんだよね。でさ、そういうのは得意分野じゃん?」
「た、確かに。その、言い方変かもだけど、答案を埋めるみたいな……。」
「そうそう。それにさ、きっかけは笹塚さんでその時点で俺にはそれしかなくて、でも唯一興味をもてたことなんだよね、自分から。そもそも俺は、20年箱庭にいたからそこから2年もいかないうちで語れるようなことってあんまりなくて。だから映画を観たことも、笹塚さんの作品を観まくったことも、その感想も全部書いた。書けるものは全部書いたって感じかな。紙足りなくて、スタッフさんに紙を貰って書けるだけ書いたと思う。声の演技なんかはボロボロだったよ。そもそも練習したことも、養成所があることすら知らなかったんだから。どちらかといえば、あの声を出していた人がいる場所なんだ、くらいで動いてたようにも思う。」
「……それで、結果は?」
声の演技が上手くできなかったのだとしたら、合格している可能性は限りなく低いように思える。怜花はごくりと喉を鳴らした。
「何の映画だったの?」
「『ハルアトスの姫君』っていう、主人公は女の子だったんだけど、そのヒーローが笹塚さんだったんだよね。3部作で、あの日観たのは1でさ。めちゃくちゃ影があるのにそれは表に出さなくて、ヒーローなのにあまりヒーロー然とはしていなくて、ファンタジーなのに、魔法も剣も出てくるのに、その声もその人も本当にそこにいるみたいな普通さがあって驚いたんだよね。で、あんまりない金を叩いて3部作全部観に行って、気が付けば笹塚さんの出てる作品は片っ端からレンタルして観て、聞いた。昔は笹塚さんのラジオもあったから、それも聞いてたな。」
「すごいのめりこみ……。」
怜花がそう呟くと、律は少し恥ずかしそうに笑った。
「ね。何の目標もなくてただ死なないためにバイトで命を繋いでただけの俺がさ、初めてハマったのがアニメであり、キャラクターに合わせて変わる声だったんだよね。で、丁度その時に笹塚さんは事務所を立ち上げていて、その事務所で新人発掘オーディションみたいなのをやっていて、学歴不問って書いてたから応募したんだ。……まぁ学歴は不問だったけど、普通に養成所とか行ってた人とか、そういう人ばっかりが実際は来たわけだけど。履歴書も必要で事前に書いていって、でも当日は当日で、すごく色々書かなきゃいけない紙があって。中でも覚えてるのは……。」
律は少しだけ上を見た。律があの日のことを忘れたことは一度だってなかった。そのくらい、運命が変わるような出来事だったのだから。
「声の演技を見る前に、多分あれはあの事務所独自のものなんだろうけど、なぜここに来たのかとか、声優とは何だと思うかとかそういう……なんていうか、思考を見られるみたいな質問用紙があったんだよね。でさ、そういうのは得意分野じゃん?」
「た、確かに。その、言い方変かもだけど、答案を埋めるみたいな……。」
「そうそう。それにさ、きっかけは笹塚さんでその時点で俺にはそれしかなくて、でも唯一興味をもてたことなんだよね、自分から。そもそも俺は、20年箱庭にいたからそこから2年もいかないうちで語れるようなことってあんまりなくて。だから映画を観たことも、笹塚さんの作品を観まくったことも、その感想も全部書いた。書けるものは全部書いたって感じかな。紙足りなくて、スタッフさんに紙を貰って書けるだけ書いたと思う。声の演技なんかはボロボロだったよ。そもそも練習したことも、養成所があることすら知らなかったんだから。どちらかといえば、あの声を出していた人がいる場所なんだ、くらいで動いてたようにも思う。」
「……それで、結果は?」
声の演技が上手くできなかったのだとしたら、合格している可能性は限りなく低いように思える。怜花はごくりと喉を鳴らした。



