夜を繋いで君と行く

「……頑張ってるつもりはあんまりないんだけどね。」

 呟くように落ちた律の言葉にやはり苦しくなったのは怜花の方だった。

「それは……求められたものに応えるのが当たり前すぎて……。」
「そういうことなんだろうね。まぁでもそりゃそうだよー。どこに出しても二階堂さんの息子さんはご立派で素晴らしいですねって言われるために存在してたんだからさ。今はもう違うけどね。」

 怜花はこくんと頷いた。下を向いたまま、涙がはらはらと落ちていく怜花を見続けるのが辛くなった律は、そっと怜花を抱きしめる。

「今は好きなだけ、好きな人の傍に居られる。好きなことを仕事にできて、そりゃ全部がいいことばかりってわけじゃないけど、それでもあの頃より幸せだとはっきり言える。21かなぁ、2回落ちて嫌になって、そこから家を飛び出したんだよね。今思えば突飛なことをしたけど。」

 家を飛び出したなんて言葉が聞こえて、怜花はゆっくりと顔を上げた。ぽろりと涙が一筋落ちて、律の指がそれをそっと拭った。

「ここからは結構、面白い展開だよ。少なくとも、怜花が泣いちゃうようなことは起きないはず。」
「……お父様は、出てこない?」
「うん。その後の父親のことは知らないよ。」
「よ、良かった。」

 怜花は律の胸元の服をきゅっと握った。律の手が今度は怜花の頭を柔らかく撫でた。

「俺は俺の名義でお年玉とか親戚とかから貰った金を貯めている口座があるのを知ってて、落ちたことがわかって予備校をまた決められて、すぐに行くようにみたいなことになってたんだけど、まぁ適当に行ってる体を装いながら母親が買い出しに行ってる隙に俺の通帳とかが入ってる棚を開けて、キャッシュカードを取り出したんだよね。んで、実際いくら入ってんのか確認したら多分割とそのまま残ってて。っていうのも、俺生まれてこの方、お年玉とか使わせてもらったことなかったからさ。まぁ、親戚もいたし、そもそも一人当たりがくれる額とかも多かったから、とりあえず3ヶ月くらいは死なないんじゃないかくらいの金額があって、それ見たら急にここを出ようって思い立ったんだよね。」
「急に?」
「うん。ここに居ても腐るっていうか、もう腐ってるんだけど、このまま死にたくないなって。で、ちょっとずつ服とか靴とかを詰めて準備して、母親がいつもと同じ曜日、同じ時間に買い出しに行くのを見計らって家を出た。しばらくはネットカフェとかで転々としながら東京を目指した。家には出ていく、死んでない、探すなとだけ書いて出たからその後の両親のことは、育に聞いた分しかわからないよ。」
「育さんには連絡したの?」

 怜花がそう問うと、律は「うん」と小さく頷いた。