夜を繋いで君と行く

「ふふ、素敵なお姉さんだ。」
「もう気に入ってる!?やっぱり当面会わせたくない!」
「会わせてもらえるなら、緊張はするけどお会いしたいな。」
「なんで!?」
「なんでって、だって育さんっていう味方が律にいたことに安心しちゃって。私と同じような環境にいたはずなのに、律はどうしてこんなに強くて優しいのかなって思ってたけど、謎が一つ解けたよ。律には育さんがいた。」

 怜花は律の手から自分の手をスッと抜き取って、自分の方から握り直した。

「だから、何もかもがわからない私よりも何歩か先に進んでた。だから振り返って私をそこまで引っ張ってくれた。……ね?辻褄が合うでしょう?」

 怜花がそう言うと、不意に律の顔が怜花の方に近付いた。そして律の唇が怜花の瞼に触れた。

「な、何……?」
「口は全部終わったらね。したいーってなったら口以外を攻めます。」
「だからなんでっ……。」
「だって怜花、可愛いことばっかり言ってるし。あとちょっと嫉妬も。育ってばっか呼ばないでよ。まぁ育は恩人ではあるし、怜花の言う通り味方でもある。実際本当に体張って俺を守ってくれたこともあるからね。」
「体を張って……?」

 律は静かに頷いた。

「父親はさ、俺に医者になって欲しかったんだよね。冷静に実績だけ見れば俺は多分医者にはなれたんだと思うよ、志望校を落とせば。でも、それじゃ駄目だったんだよね、父親的には。」
「どういう、こと?」
「父親の行かせたい、そこそこ医学部で有名な大学に進ませて、その上で自分と同じ循環器を学ばせて、同じ病院で働かせたかった。すごいでしょ。俺は父親の願望を叶えるためにだけ存在させられてたんだ。20歳まではずっとね。」

 20年という時間の重みをまず思ってしまった。その20年が、呼吸の出来ない食卓とともにあったのならば、今の律がこんなに優しく微笑みを見せてくれることが奇跡にすら思える。また、怜花の視界が滲む。怜花は何度も瞬きを繰り返し、涙を落としていくことで視界をクリアにした。

「俺の成績は別に悪くなかったんだよ、本当に。ただ、父親が行かせたい大学には全然足りてなかった。地方の医学部なら行けたレベルで学力はあったんだけど、断固として認めなかった。努力が足りないってさ。んで、多分あれは手の位置的にほっぺだったんだろうけど、叩かれそうになったところに割って入ったのが育。でもさぁ、実際叩かれてる姉見るのもまぁ結構胸痛いわけよ。だったら自分が叩かれた方がマシ。だって育は悪くない。俺も本当は悪くないけど、点数が取れていないのは俺なんだからさ、ぶたれるなら育より俺の方が妥当だと思った。」

 律の手を握る怜花の手に力が入った。首を強く横に振る。

「……妥当なんかじゃ、ない。」
「うん。今はというか、あの家を捨てて振り返ればそうなんだなってわかる。でもあの頃はそうだなぁ、育が痛くなきゃいいかって。高校生の俺はさ、そのくらいしかできなかった。あれが俺のできる限界だったんだろうなって、それは今もそう思うんだよ。」