夜を繋いで君と行く

 怜花は息を飲んだ。律も怜花も家族の話を極力避けていた。それも当然だと今ならわかる。だって、『楽しい話』は少しもないのだから。

「あー……ごめん、泣かせた。早かったね、ごめんごめん。」

 律がオムライスのプレートを持って、怜花の向かいから隣に移動した。そして、服の袖で怜花の目元を軽く拭いた。

「……律は私を、優先してる場合じゃ、ない……!」
「えぇ?そんなこと言われたって、怜花はどうせ自分よりも俺を優先するでしょ?だから同じことをし返してるだけ。落ち着いたら食べさせてあげる。今はもうこれ以上話さないから、まずはゆっくり泣き止んで。その間に俺はもりもり食べちゃう。」

 律はその言葉通り、オムライスをまた一口運んで咀嚼しながら立ち上がり、スープとマリネも持ち運んだ。パクパクと食べる様子をもっと見ていたいのに、涙が少し邪魔だった。しかし、話を聞きたいと言ったのは自分だ。こんなところで折れたくなかった。

「泣きながら食べるの?」

 怜花は強く頷きながら、律に負けない勢いでもぐもぐと口を動かした。口の中のものがなくなると、休まずに次々に口に入れていく。

「ねぇ待ってよ~ゆっくり食べて。食べさせるのやりたい~!」
「や、やんない。」
「じゃあ食べさせてもらっちゃおうかなぁ、俺が。」
「……いい、よ。」
「へっ?」

 自分が律に世話をされていい日ではない。でも、自分が律の喜ぶことをするのは正しい。そうは思える。

「零れにくいのは……オムライスならちっちゃくすれば、うん。」

 律はスプーンを握ったままだ。仕方がないので、怜花は自分のスプーンで律のオムライスを小さめにすくった。そして左手を下に添えながら律の口元に運ぶ。視界はわずかに滲んでいるがそれはもう仕方がない。

「食べさせるよ。だって律がしてもらいたいことなんでしょ?誕生日だもん。叶えるよ、なんだって。」

 普段なら恥ずかしさが先に前に出てしまうが、今はいつもと違う気がする。律が望むものを、少しでも多く『与えたい』

「……怜花さ。」
「何?」
「普段ずっと可愛いのに、突然何か決意したりやるって決めたら急にイケメンになるのずるくない……?」
「い、イケメン……?」
「全然俺なんか太刀打ちできないくらいかっこいいこと、割と多くない?俺、全然怜花の前でかっこいいことできてないし。まぁあーんは普通に嬉しいからしてもらうけどー。いただきまーす。」

 大きく開けた口に、スプーンをもっていく。いつスプーンを引けばいいのか戸惑ったが、少し引こうとしたのに気付いた律がおそらく加減してくれたようだ。すっと抜き取ると律と目が合った。

「ん、おいしい。怜花にあーんするのも俺、やりたいんだけど?」
「……律だってさ。」
「ん?」
「普段かっこいい側で生きてるくせに、ずっと可愛いこと言うしやってると思うんだけど。」
「え、可愛くないよ全然。」

 ブンブンと首を横に振って否定されてしまう。その姿が可愛いのだと言ってやりたいが、律はきっと認めない。律の手にあるスプーンには一口分のオムライスがいつの間にか用意されていた。怜花は観念して口を開けた。