夜を繋いで君と行く

 おそらく九重にもこの不機嫌な声が聞こえたのだろう。『まずいですね』なんていう言葉が返ってきた。

「り、律、帰ってたんだ。」
「浮気現場見つけちゃった気分なんだけど?」
「なんで!?」
『本当に余裕のない人なんですね、怜花さんの前だと。では怜花さん、後ほど僕が知っているスマートフォンのレンタルサービスについての詳細メールをお送りします。二階堂さんのことはどうにか適当にやり過ごしてください。あとは任せました。』
「あっ!」

 最後は一気に早口でまくしたてられてしまった。怜花の耳元には無機質な機械音が残る。律はそのままスタスタと怜花の横までくると、ほぼ距離のない位置に身を投げ出すように座った。

「俺には話せない、心配事でもあった?」

 困ったように微笑む律を見て、怜花の胸がきゅうっと苦しくなる。怜花は慌てて首を横に振った。

「違うよ!その、九重さんから大丈夫ですかって、その、律じゃなくて私が。」
「うん。まぁそんなことだろうと思ったけどね。怜花から九重くんに電話するなんてことは、俺が夜通し帰ってこないとかそういうのだろうし。ごめんごめん、ちょっとからかった。」
「……騙された。」
「声だけじゃなくて表情もそれっぽかった?」
「……ぽかった。」

 怜花は呆気なく騙された自分が気恥ずかしくて、ふいと律から顔を背けて、手元のスマートフォンを見た。そしてメールのアイコンをタップすると九重からはメールが来ていた。メールに乗せられたURLをさらにタップするとスマートフォンのレンタルサービスの機種や各種料金、レンタル期間などが一覧になっているページに飛んだ。借りる期間はそう長くなくていい。機種も古いもので充分だった。

「スマホのレンタル?」

 怜花の肩に軽く顎を乗せながら、律は怜花のスマートフォンの画面を覗き見て問いかける。怜花は静かに頷いた。

「……手紙の返事を、しなくちゃなって。」

 結婚式の招待状をこの家に届くようにはさせられない。律の個人情報をあの子には渡せない。かといって電話番号も知られたくない。どうすれば自分にとっても律にとっても安全なのか、眠れるようになってからはそんなことを考えていた。逃げ続けるにも限度があるのならば、どこかで線を引かなくてはならないと。