夜を繋いで君と行く

* * *

『亜衣花ちゃんが誘ってきて、断れなくてさ。ごめん、もうしないから。』
(もうしないとか、そういうことじゃない。)

『付き合うって返事、まだもらってなかったから。』
(好きですって言っていたのは、嘘?)

『意外と押しが強いんだね、怜花ちゃんの妹って。怜花ちゃんと真逆。』
(じゃあ最初から、私を選んだみたいな態度を示さないで。)

 浮かんでは消え、消えては浮かぶ『亜衣花』を選んだ人たち。言い訳を聞いてただ静かに涙を落とす、大学生の自分、高校生の自分を見つめるのは辛かった。高校生の自分がうずくまって、動けなくなる。大人の怜花はただその世界を眺めていた。だからこそわかる、ここは夢なのだと。

(……夢だけど、言われたことは『夢』じゃない。)

 高校生の怜花の前に、一つの影が近付く。大人の怜花からはまだ顔が見えないけれど、泣きじゃくる怜花の前にすっとしゃがんだその人に見覚えはあった。

「怜花。俺と行こう?」

 高校生の怜花が律に出会うなんて事象は起こるはずもない。だからこれは自分が自分に都合よく見せている夢なのだ。
 泣いていて上手く顔が上げられない怜花の頭に、律の手がそっと伸びる。そんな姿を大人の怜花は静かに見守った。

「はーい、手、もらうね?」

 手を引かれて明るい方に歩んでいく。多分、まだ涙は止まっていないのだろうけど、その手がゆっくりと律の手を握り返すのを見つめながら、怜花は小さく微笑んだ。

(……今の私は、今の律に手を引いてもらえる。だからせめて夢の中では、あの頃の私が手を引かれてほしい。)

 泣いても涙は枯れなくて、かといってそこまで大事だったかと問われればそれすらよくわからなくて、大切という感覚をずっと感じることができずにここまで歩いてきてしまった気がする。
 里依がくれる『大切』と、律がくれる『大切』は似ているようでどこか違う。どちらも大切で、でもきっと、律のものは『大切』に『特別』が混じった何かで。

「……その人の前ではね、どれだけ泣いてもいいんだよ、『私』」

 遠ざかっていく背中に、怜花はそっと語りかけた。

「その人は何度も私を『私』に戻してくれるから。」