「…今も…そうですね、普通に嫌なものは嫌で、苦手なものは苦手なんですけど、でも。」
「うん。」
言い淀む律の背中を、怜花は静かに見つめた。
「今日どうしたらいいかってことを、…今ある不安とか心配を、一人で抱えてなくてもいいかって。上手くいってもいかなくても、本当にわかってほしい人にはわかってもらえてたら、それで充分だなって、思うだけじゃなくて実感があったって言えばいいのかな。…すみません、いつもはもっと歯切れよく話せるのに…わかりにくかったですよね。」
律が少し落ちたトーンで謝ると、五十嵐は『いや…』と律の言葉を遮った。
「二階堂くんの話はいつだってわかりやすいよ。よかった、二階堂くんがようやく、自分の周りにいる人を認識してくれて。」
「…見えてなかったですか?」
「うーん、見てはいたと思うけど、でも自分の中には入れない。二階堂くんはそう決めていた、みたいに見えた。まぁだから、『アーク』にはぴったりだったね。」
重くなりかけた空気は監督の朗らかな声で緩和される。それにつられて、律も笑みを返す。
「…すっごいやりやすかったのは、『アーク』の心がわかりやすかったからですね、本当に。」
「ということだろうね。」
五十嵐がそう返した瞬間、ドアが開く。ドアの比較的近くに立っていた怜花は、強い『女』の香りにこのことかと納得がいった。
「おはようございます。」
「おはよう、星宮さん。体調は戻ったんだね。」
「はいっ!昨日はご迷惑をおかけしました!もうすっかり元気ですっ!」
昨日のことなどまるでなかったかのような笑顔に、怜花もゾッとした。律は昨日の夜、『傷つけた』ことをあんなに苦しそうに話していたのに、彼女の表層には傷なんて一つも見えなかった。そして、まっすぐに律の横に向かっていくゆりあの足に気付いて、怜花は自慢の俊足で踏み込んだ。
「…何ですか?」
重たげなメイクが施された、不自然なほどに大きな目が下から怜花をじっと見つめる。律の隣に座ろうと、ゆりあが椅子に手をかける前に、怜花はその椅子を引いた。
「二階堂に星宮さんを近付けないことが、私の今日の仕事です。」
「うん。」
言い淀む律の背中を、怜花は静かに見つめた。
「今日どうしたらいいかってことを、…今ある不安とか心配を、一人で抱えてなくてもいいかって。上手くいってもいかなくても、本当にわかってほしい人にはわかってもらえてたら、それで充分だなって、思うだけじゃなくて実感があったって言えばいいのかな。…すみません、いつもはもっと歯切れよく話せるのに…わかりにくかったですよね。」
律が少し落ちたトーンで謝ると、五十嵐は『いや…』と律の言葉を遮った。
「二階堂くんの話はいつだってわかりやすいよ。よかった、二階堂くんがようやく、自分の周りにいる人を認識してくれて。」
「…見えてなかったですか?」
「うーん、見てはいたと思うけど、でも自分の中には入れない。二階堂くんはそう決めていた、みたいに見えた。まぁだから、『アーク』にはぴったりだったね。」
重くなりかけた空気は監督の朗らかな声で緩和される。それにつられて、律も笑みを返す。
「…すっごいやりやすかったのは、『アーク』の心がわかりやすかったからですね、本当に。」
「ということだろうね。」
五十嵐がそう返した瞬間、ドアが開く。ドアの比較的近くに立っていた怜花は、強い『女』の香りにこのことかと納得がいった。
「おはようございます。」
「おはよう、星宮さん。体調は戻ったんだね。」
「はいっ!昨日はご迷惑をおかけしました!もうすっかり元気ですっ!」
昨日のことなどまるでなかったかのような笑顔に、怜花もゾッとした。律は昨日の夜、『傷つけた』ことをあんなに苦しそうに話していたのに、彼女の表層には傷なんて一つも見えなかった。そして、まっすぐに律の横に向かっていくゆりあの足に気付いて、怜花は自慢の俊足で踏み込んだ。
「…何ですか?」
重たげなメイクが施された、不自然なほどに大きな目が下から怜花をじっと見つめる。律の隣に座ろうと、ゆりあが椅子に手をかける前に、怜花はその椅子を引いた。
「二階堂に星宮さんを近付けないことが、私の今日の仕事です。」



