夜を繋いで君と行く

* * *

 ノックを2回し、返事がなかったためそのまま入室した。すると五十嵐監督がにこやかな顔で座っていた。

「おや、今日は人数が多いね、二階堂くん。」
「はい。」

 五十嵐は律の表情を見つめると、ふわりと微笑んだ。そしてその後、九重、怜花を順に見た。

「本日はよろしくお願いいたします。今日は少し別件で僕が席を外すため、代わりに一橋を二階堂さんの近くに配置させていただきます。」
「うん、そうだね。九重くんがいられないなら代わりの人はいた方がいいかもしれない。はじめまして、『碧眼のアーク』監督の五十嵐です。」
「はじめまして。九重の代わりを務めます、一橋です。『碧眼のアーク』拝見いたしました。以前から五十嵐監督の作品を観ておりましたので、このような場ではありますが一ファンとしてお会いできて光栄です。」

 怜花は深く頭を下げた。顔を上げるとぱっと子供のように微笑む五十嵐が目に飛び込んできた。

「わぁ!二階堂くん聞いた?僕のファンだって!」
「えー僕も監督のファンだっていつも言ってるじゃないですか。可愛い女の子に言われたからって僕の時とリアクション違いません?妬けちゃうなぁ~。」
「そんなことないよ。作品を好きでいてもらえるのはいつだって嬉しいものだね。一橋さん、どうぞよろしく。」
「至らない点があるかもしれませんが、そのような場合はいつでもご指摘ください。よろしくお願いいたします。」

 怜花が再び頭を下げ、顔を上げると九重と目が合った。九重は小さく頷いたため、怜花も少し緊張しつつも頷き返す。

「では僕はこれで一度失礼させていただきます。初回舞台挨拶後にまた伺います。」
「はーい、行ってらっしゃい。」

 律がひらひらと九重に手を振った。怜花はぺこりと頭を下げ、控室を出ていく九重を見送った。そしてそのまま、壁を背にして控える。

「今日はどうやら舞台挨拶には出るって、ちゃんと会社から連絡が来たよ。」
「そうですか。…まぁ、そりゃそうですよね。発熱したとかの体調不良じゃないわけですし。」

 律がそう答えると、五十嵐はじっと律を見つめながら口を開いた。

「二階堂くん。」
「はい。」
「…少し、辛さが減ったみたいだね。張りつめてたものが、軽くなったみたいに見える。」
「え…。」
「おや、違ったかな?」

 いたずらな笑みを浮かべた五十嵐に、律は『あー…』と言いながら天井を見た。