夜を繋いで君と行く

 すり…と、怜花の手にすり寄る律に、まだ回復し終えたわけではないことがわかる。昨日の今日で全てがどうにかなったと思っていたわけではもちろんないが、まだまだ律の心は疲れ、傷ついたままなのだということは十分に感じられた。

「…いつもは、我慢してた?」
「え?」
「本当はもっと前から、…強く抱きしめたかった?」

 怜花の問いに一度だけ少し目を見開いた律が、観念したかのように目を閉じた。

「…うん。怜花と初めてお泊まり会した時の夜に、怜花が眠れなくなって、泣いてたじゃん。…あの時からずっと、本当は強く抱きしめたかった。…嫌がられたり怖がられたりしたくなくて、できなかったけど。…そうだね、ずっと、測ってたかも。大事にしたいのも本当で、でも強く抱きしめたいのも本当なんだよね。…今日は、そういう本音の自分が勝っちゃった。」
「…4か月以上飲み込んでたの?」
「うわぁ、期間を具体的に出されるとそこそこあるね。」
「ほんとだよ…忍耐強すぎるし、自分を蔑ろにしすぎ!…って、怒りたいところだけど。」

 怒れないのだ、怜花には。律をより一層慎重にさせてしまったのは、先に自分の臆病さに負けて律に背を向けた自分なのだから。

「怒っていいよ、昨日みたいに。怒るっていうか、厳しくする?」
「…本当はね、私に怒る権利はないんだよ。律にそんなに測らせたのは、私がずっと…その、自信がなくて、律から逃げたからだと思うから。…今思うとね、本当に必死で追いかけてくれたんだなって。…怖かったし、寂しかっただろうなって、あの時の律の気持ちが今なら前よりもわかる気がする。…あの時から律はずーっと、頑張りっぱなしなの。今日も背中向けちゃってごめんね。律に背中向けてたら、律が怒っていいんだよ。なーに背中向けてんのーって。今日のハグはそういう、律の不満が多分形になってたんだね。…ごめんね。」

 怜花がそう言うと、律は怜花の方に寄り、ぐぐっと強く怜花を抱きしめた。足がぶつかり、少しだけ絡まる。全身がぴったりとくっついてしまったと錯覚するくらいには、自分と律の境界線が曖昧になっていた。

「朝からさぁー…そういう、涙腺ぶっ刺しますみたいなこと言うのやめてー?俺、この後舞台挨拶あるんだよ?目腫らしてたら変なこと言われちゃうよ。」
「目をごしごしやらなければ意外と腫れないよ?…落ち着くまでずっとこうしてよ、律。」
「…うん。してる。離して、あげない。」

 時折鼻をすする音が聞こえる度に、怜花は律の背中に回した手で律の背をさすった。腕の力が緩まるまではこのまま、ずっと我慢していた過去の律の分も抱きしめて、そして抱きしめられていたかった。